月光

在原銀雅

月光

夜空を眺めていた。魅入られそうなその黒色は月明かりで明るく感じる。今日は満月だ。余計に夜空が美しく見えてくる。 「そろそろ寒くなってきたし、部屋に戻るか。」流石に3月でも夜は寒いので僕はベランダから部屋に戻ろうとした時、誰かに話しかけられた。 「こんばんは」突然のことに驚いてその場に尻もちをついてしまった。「あ、驚かせてしまい申し訳ありません。大丈夫ですか。」僕は振り返ってその人を見た。その人は綺麗な女性で肌は白く、長い黒髪は月明かりで照らされ艶がある。そして、白い着物を着ているからか更に白く見える。 「まだ、名乗っていませんでしたね。私は…」そう言いかけた女性は咳払いをし、名乗らなかった。まるで自分の事を言いたくないかのように…。僕は普通に話した。自分の相談事やお互いの悩み事などをはした。そこから見えてきたのは、とても、心が穏やかで優しい人だと話が盛り上がってしまい、2時間…いや、それ以上かもしれないが沢山女性と話し込んでしまった。女性に寒くなってきたから温かい飲み物でもいらないか。と聞いたがやんわり断られてしまった。 そろそろ、お時間大丈夫そうですか。夜も更けてきましたが…」女性の一言で僕ははっとなり部屋の時計を見たらもう十二時をとっくに過ぎているではないか。明日は休みだったから良かったが。「あ、もう時間が…そうですねそろそろ失礼します。おやすみなさい。」ベランダから部屋に戻り、窓の鍵とカーテンを閉め部屋の電気を消しベッドに横になったところですぐに眠りについた。 その日、僕は夢を見た。その夢にはさっき話てたあの女性がいたがなにか様子が変だ。微笑んでいた顔が悲しそうな顔をしているのだ。僕は女性に話しかけた。「あ、あの…大丈夫ですか。」しかし、女性からは一言も返事はなかった。彼女の傍によると彼女はすすり泣いていた。 「貴方は…」女性は僕に気づいて「すみません、お見苦しいところをお見せしてしまって」「いえ、大丈夫ですよ、それよりもどうして泣いていたんですか。」「それは…ですね」彼女は交通事故に遭い、昏睡状態らしい。生霊となって僕に話しかけてきたようだ。ちなみに、彼女の口調が穏やかなのは誰もが知る有名企業のご令嬢だそうだ。「そう、ですか…」僕は言葉が詰まった。何を言っていいのかわからず…どうしたら、彼女を助けられるのだろう。「私は、貴方のような方と共に過ごしたい。私の入院している病院へ是非いらしてください。」彼女がそう言ったので僕は彼女の入院している病院へ行くことを決めた。 翌日僕は昨日話した女性が入院しているという病院へ訪れた。場所は聞いた(夢の中で)ので僕は彼女に言われた通りの部屋番号を目指した。 彼女がいる病室に付き部屋のドアを開けた。彼女は人工呼吸器がつけられていた。「こうしては、はじめまして…ですね」僕は彼女にそう言い、近くにあった椅子に腰を掛けた。僕は彼女が話していたことを振り返る。彼女の両親は多忙でなかなかお見舞いにこれてないことや誰も来てくれないので寂しいということを話してくれた。「僕は貴女のご両親の代わりにはなれないですけど、それでも貴女の寂しさが少しでも和らぐなら僕が来た意味がある。そう思います。」 僕はそうぽつりと言った。「ありがとう…ございます」僕は声のする方を見た。声の主は昏睡状態だった女性の姿だった。「目覚めた…?な、ナースコール押さなきゃ!」僕は急いでナースコールを押し、看護師さんを呼んだ。彼女が目覚めたと知った医師もとても驚いていた。同時に彼女の両親も来て辺りは若干騒然となった。 彼女の両親からは救世主などと崇められたがやめてほしいと思った。数年後


 僕達はあの夜がきっかけで付き合うことになった。彼女の両親も公認で付き合うことになった。そうして、この春、僕達は式を挙げるつもりだ。彼女のお腹に新しく芽吹く命とともに僕は彼女と出会えて、最高だ。あの夜僕は彼女と出会えてなかったらどうなっていたのか全く想像もつかない。

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月光 在原銀雅 @arigin1017

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