竜人と忠犬メイドに愛されすぎて困ってます~気づいたら番と主になっていた僕の騒がしい日々~

功刀

第1話:僕の日常

 僕の名前はカナデ。人里離れた森の奥で、ひっそりと暮らしている。

 争い事は苦手だし、これといった自慢できる特技もない。ただ、僕の身体を巡る魔力には、少しだけ特殊な性質があるらしい。

 それだけだ。


 ずっと1人で生活していたが、ある日を境に徐々に日常が変わっていった。

 色々なことがあって何故か同居人が2人増えたのだ。

 それからは騒がしい日々を送っている。


 どんな生活を送っているって?

 ならばとある1日のできごとを紹介したい。

 それはある日のこと……




「ふぁぁ~……」


 僕はベッドの上であくびをしながら目覚めた。

 何故か知らないけど、今日はよく眠れた気がする。覚えてないけどいい夢が見れたんだと思う。


 いい気分のまま起き上がりベッドから降りようとした時だった。


「おはようカナデ。よく眠れたか?」

「うんおはよう。ちょっと起きるのが遅かった……かも……ってうあああぁぁぁ!」


 僕のすぐ真横には可愛らしい顔をした女の子が添い寝していたのだ。


「シ、シルヴィア!? ど、どうして僕のベッドに居るのさ!?」

「どうしてって。お前は私のつがいだろう? ならば一緒に寝るのは当然じゃないか」


 彼女の名前はシルヴィア。頭には角が2本生えていて竜のような尻尾が生えている竜人族という種族だ。


「だ、だからって寝ている隙に入ってこないでよ!」

「番なんだから細かいことは気にするな。私は寒がりなんだから誰かと一緒じゃないと安眠できないんだ。もう少しだけカナデの体温を味合わせてくれ」

「く、苦しい……」


 シルヴィアに抱きしめられて抱き枕みたいになる僕。竜人族は力が強いせいでちょっと苦しい。

 それに加えてシルヴィアは……その……おっぱいも大きいから感触がダイレクトに伝わってくる。


「……ん……カナデ……どこへも行くな……私の側にいろ……」

「は、離して……そろそろ起きないと――」


 バァン!!


「シルヴィア様! 朝からご主人様を困らせるのはおやめください!」


 扉を勢いよく開けて入ってきたのはメイド服を着た女の子だった。


「うるさい。番と戯れるのは当然の権利だ」

「戯れるのは結構ですが、ご主人様のお身体に障ります! さあ、離れてください!」


 シルヴィアはメイドに引っ張られ、そのまま僕から離れていった。


「何をするんだマロン。私のカナデの邪魔をするな」

「ご主人様が苦しそうでしたよ! 寝ているご主人様と一緒に寝るなんて羨ま……じゃなかった。寝込みを襲うようなことしないでください!」


 シルヴィアに対してぷくりと頬を膨らませながら怒るメイド。彼女の頭の上では、感情を示すように犬の耳がぴこぴこと動いている。


 彼女の名前はマロン。獣人族で頭には獣耳があり尻尾も生えている。

 頼んでいないのに僕のことをご主人様と呼んでいる。


「シルヴィア様! 朝からご主人様を困らせるのはおやめください!」

「カナデは私の番だ。番と一緒になって何が悪いのだ?」

「だからって寝込みを襲うのはダメです! ご主人様に迷惑ですよ!」

「ならばマロンも一緒に寝るか? 私は別に構わんぞ。1人ぐらい増えたところで邪魔にはならんしな」

「え……わたしも……ご主人様と……一緒に……?」


 マロンが僕のことチラチラ見てくる。


「う………………で、でも……あぅ…………………………………………………………………………………………………………ダ、ダメです!」


 今もの凄く葛藤してなかった?


「朝ごはんの用意しているんですから早く食べてください! 冷めちゃいますよ!」

「そうか。なら仕方ないな。私も腹が減っていたところだ。名残惜しいが今日はここまでにしよう」


 シルヴィアは僕のことをチラリと見てから歩き出し部屋から出ていった。


「ふぅ……助かった……」

「大丈夫でしたかご主人様!?」

「う、うん。ありがとうねマロン」

「そ、そんな……大したことしてませんよ……えへへ……」


 嬉しそうに頬を染めるマロン。耳がピクピク動いて尻尾もブンブン振っている。

 あの耳と尻尾はとても触り心地が良さそうでつい手が出てしまいそうだ。きっとフカフカで気持ちいいんだろうなぁ……


 尻尾を抱きながら寝たらきっといい夢が見れるはずだ。

 一度頼んでみようかな……


 っていけない!

 何を考えているんだ僕は!

 いきなりがっついたらシルヴィアみたいじゃないか!


「と、とりあえず朝食にしよう! 僕は着替えるから先に行ってて」

「はい! ではわたしも準備してきますね!」


 そういってマロンも部屋から出ていった。


 僕はすぐに着替えてからリビングまでやってきた。

 テーブルの上には美味しそうな料理が並んでいる。マロンは料理上手で毎日作っている。

 マロンが僕の健康を考えて作った、栄養バランス満点の料理。その味は絶品でマロンの愛情がこもっているのがわかる。


 そこまでお腹は空いていなかったけど、置かれている料理の数々を見たら食欲が一気に湧いてきた。


「いただきます!」


 さっそく目の前の物を食べようとした時……


「ご主人様、あーん」

「ま、マロン!? いつも言ってるけど自分で食べられるから!」

「いえ、食べさせて差し上げるのもメイドの務めです!」


 嬉しそうに尻尾をぶんぶん振るマロン。

 その申し出を断れずにいると、今度は向かいの席のシルヴィアから鋭い視線が飛んでくる。


「……カナデ。私にも、あーん、をしろ」

「えぇっ!? し、シルヴィアも!?」

「番が他のメスにされている事を、私にしないという法はないだろう。さあ、早く」


 シルヴィアが前のめりになりながら口を開けて顔を近づけてきた。


「ちょ、ちょっと! シルヴィア様は自分で食べたらいいじゃないですか!」

「ならばカナデも自分で食べるべきだろう? マロンの手を借りる必要はあるまい?」

「あぅ……そ、それは……」


 耳がペタンと折れて動揺するマロン。

 けどすぐに復活して僕に顔を向けてきた。


「ご、ご主人様はわたしの手から食べたいですよね!? メイドなんだからこれくらい当然ですよね!?」

「カナデは私の番だぞ。ならば私がカナデに食べさせてやる。マロンの分は後回しだ。そうだろうカナデ?」

「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いて……」


 2人は不満げに唇を尖らせ、僕をじっと見つめてくる。


 結局、僕は二人に交互に「あーん」をされる羽目になるのだった。


 こうして朝から恥ずかしい思いをしながら、二人の「あーん」を交互に受けるという謎の儀式が続いた。


「……ん。カナデ、もっと大きく口を開けろ」

「ご、ご主人様っ、次はわたしの番ですからねっ!」

「はいはい……あーん……」


 何度も口を開けさせられ、すっかり食べさせられる側に慣れてしまった自分が情けない。

 でも二人とも嬉しそうにしてるから、まあ……いいか。


「ふふっ、ご主人様、ほっぺについてますよ」


 マロンが僕の頬を指で拭き取り、その指をちょこんと舐めた。


「え……!?」

「お、おいマロン! 何をしている!」

「何って……ご主人様の味を……」


 途端にシルヴィアの眉間に皺が寄る。


「ふん……カナデは私の番だ。味見など許さんぞ。」

「そ、それはシルヴィア様こそ、さっきからずっと近すぎです!」


 またもや火花が散りそうな二人の睨み合いが始まる。


「……ふ、二人とも……ケンカしないで……」


 情けなく小さく呟いてみるけど、届いていない。

 竜人と獣人の睨み合いの間に挟まれて、僕はただお茶を啜るしかなかった。


 前までは1人で生活していてこんな騒がしい日々を送るなんて想像していなかった。

 なぜこんな状況になってしまったのか。


 それはシルヴィアと出会ったあの日に遡る――

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