第4話 ソニーとJVCビクター

 自宅


 お小遣いを使い果たしてしまったが、その甲斐あって念願のビデオデッキを手に入れることが出来た。昨日まで存在すら知らなかったものが念願のものになるとは、人の物欲は先の読めないものである。


 早速ビデオデッキをリビングのテレビに接続。最近の入出力端子はHDMI一本でいけるが、このアナログ機器の場合は、赤白黄色の端子が必要である。この端子は電源コードとセットで付けてくれた。思ったよりサービスのいい店だ。値切れたし。


 ワクワクしながら端子を接続、電源をオンにし、いざ視聴。観るのは「大晦日だよドラえもん」


 が、テープがデッキの挿込み口に入らない。

 と言うより、挿込み口に対してテープが小さい気がする。

「あっ」何かに気付いたクロが耳をピンと立てた。


「このテープ、ですよ」


 わたしの思考はまたも停止した。


「な、なんだい、ベータって?」わたしが口を開くのにたっぷり五秒かかった。

「ビデオテープには二種類あるんですよ。このテープは、ソニーが開発したベータマックス、通称ベータです。デッキの方はVHSという規格です」


 わたしは無言でテープとデッキを眺めると、ガックリと肩を落とした。



 総武線


 わたしは次の日ビデオデッキを膝に乗せ総武線の座席に座っていた。


 なんでもその昔ソニーとビクターJVCのビデオテープの覇権をかけた争いがあって、テープの規格が二つに分かれてしまったらしい。

 リュックの中に隠れたクロが教えてくれた。それにしてもこの猫、よく知っている。

 そんな大昔の争いの影響が時を越えて現在に降りかかってくるとは、小学生が背負うには重すぎる因果だ。

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