※こちらは旧版へのレビューを再掲したものです
もし、自らが情熱を注いできた「芸術」が、世界を救う力になるとしたら?
主人公の東郷雅臣は「魂を宿す絵を描く」画家。
テロにより志半ばで命を落とした彼は、絵筆を剣に持ち替え、異世界で新たな使命に挑みます。
彼の強さの根源は、転生によって与えられたチート能力ではなく、彼自身が生きている間に培ってきた、画家としての魂にあります。
物語の舞台は、現代の地球から始まり、神々の住まう「唯一世界」、そして邪神の脅威に晒される異世界「エリュトリオン」へと、圧倒的なスケールで展開していきます。
異世界転生ものではありますが、転生後すぐに冒険が始まるのではなく、「唯一世界」で三年間にもわたる修行期間が設けられています。
剣神や刀神、槍神といった十柱の神々から、単なる戦闘技術だけでなく、それぞれの武具に宿る哲学や生き様をも学んでいく。
この丁寧な描写があるからこそ、雅臣が異世界で直面する困難に立ち向かう姿に、説得力が宿ります。
主人公の戦い方が「絵を描くこと」であるという点も、この物語の独特な点です。
魔法が使えない代わりに、彼は現象そのものを理解して絵にすることで、魔法を凌駕する力を発揮します。
そして面白いことに、その力は戦闘のためだけではなく、人々を助け、笑顔にするためにも使われます。
戦闘シーンも、力任せのぶつかり合いではなく、創造性と知略に満ちた芸術的なものに昇華されています。
これは、一人の青年が、自らのアイデンティティと向き合い、仲間との絆を力に変えて成長していく姿を描いた、壮大な意欲作。
その絵筆で、絶望に満ちた世界に、彼がどのような色彩を描き加えていくのか。
その旅路の行く末を、最後まで見届けたいと思わせてくれる作品です。