第4章

大型機の緊急着陸を成功させた一件をきっかけに、片山と真奈美の間には信頼関係が生まれつつあった。真奈美は片山の冷静な判断力に尊敬の念を抱き、片山も真奈美の成長する姿を静かに見守っていた。そんな日々の中、季節は移り、片山が羽田に着任して半年が過ぎようとしていた。


ある朝の業務開始前、佐藤が管制塔内に集合をかけた。


「みんな、少しだけ時間をくれ。大事な報告がある。」


佐藤の声に、管制官たちはそれぞれの作業を一旦止め、彼の周りに集まった。


「今回の人事異動で、田辺さんが仙台空港に移ることが決まった。本人の希望だ。」


その言葉に一瞬静寂が訪れた。篠田が目を見開いて驚きの声を上げる。


「えっ、田辺さんが? 仙台に?」


「そうだ。田辺さんの地元でもある。定年まで残り少ない期間を慣れ親しんだ場所で過ごしたいとのことだ。」


佐藤はそう言いながら田辺を見た。田辺は少し照れくさそうにうなずいた。


「まあ、俺もそろそろ若い人たちに任せる頃だろうからな。」


その言葉に、内田が「いやいや、田辺さんがいなくなるなんて困りますよ!」と真剣な顔で言う。


一方で、片山は驚いたように田辺を見つめていたが、何も言わなかった。その表情を真奈美は見逃さなかった。彼の目に、一瞬の戸惑いと少しの寂しさが浮かんだように見えたが、片山はすぐにその感情を隠すように視線をそらし、無言で持ち場に戻った。


「片山さん、どうしたんだろう……」


真奈美は少し気になりながらも、片山の背中をそっと見送った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る