第18話:高まる緊迫、奇跡の一撃
インターハイの全国大会。
その舞台への切符を掴んでから、
女子バスケ部には、
これまで以上の、
熱気が満ちていた。
体育館には、
選手たちの、
鋭い声が響き渡る。
全国の強豪校の、
プレイを研究し、
自分たちの戦術を、
さらに磨き上げる。
一つ一つのメニューが、
私たちを、
最高の状態へと、
導いていく。
私も、
主将として、
チームの先頭に立っていた。
体力的には、
疲労が蓄積しているけれど、
今は、
そんなことを、
気にしている暇はない。
みんなの期待を、
裏切るわけにはいかない。
(この努力が、
報われるように……)
私の心は、
常に、
勝利だけを、
見据えていた。
全国の舞台で、
最高のプレイをする。
それが、
私たちが、
この夏にかけてきた、
全ての意味だ。
そんな中、
男子バスケ部のインターハイ予選も、
いよいよ、
最終局面を迎えていた。
遠藤くんのチームは、
準決勝へと駒を進めたのだ。
勝てば、
決勝戦へ。
そして、
全国への切符が、
さらに近づく。
彼らの準決勝の日。
私たちの女子バスケ部は、
午前中に、
最終調整を終えた。
コーチからは、
午後は自由時間、と。
だから、
私は、
迷うことなく、
遠藤くんたちの試合が行われる、
メインアリーナへと、
向かった。
遠藤くんも、
男子バスケ部の主将として、
田中くんが、
チームを率いている。
彼らが、
どれほどの思いで、
この準決勝に、
挑むのか。
私には、
痛いほど分かった。
会場に着くと、
すでに、
多くの観客が、
詰めかけていた。
ざわめきと、
熱気が、
肌に直接伝わってくる。
独特の緊張感が、
体育館全体を、
包み込んでいた。
私は、
観客席の、
少し高めの位置から、
彼の姿を探した。
遠藤くんは、
スタメンで出場していた。
彼の小さな体が、
大きな相手選手たちの中にいると、
埋もれてしまいそうに見える。
試合は、
序盤から、
激しいものになった。
両チームとも、
一歩も譲らない。
点の取り合いが続く。
遠藤くんは、
冷静だった。
彼は、
無理に突破しようとはせず、
コート全体を、
見渡す。
そして、
パスコースがなければ、
誰よりも遠い位置から、
ボールを放った。
「(超ロングシュート……!)」
彼の、
小刻みなステップから繰り出される、
予測不能なドリブルが、
相手ディフェンスを、
次々と翻弄していく。
あの、
私との練習で、
磨かれた動きだ。
彼は、
ただ点を取るだけでなく、
コート全体を把握し、
流れを自在に操る存在だった。
その戦術眼は、
まるで監督のようだった。
試合は、
中盤に差し掛かり、
さらに、
ヒートアップしていく。
相手のディフェンスは、
ますます厳しくなった。
遠藤くんは、
何度も、
激しい当たりを受ける。
それでも、
彼は、
倒れない。
立ち上がり、
また、
ボールを追う。
点差が、
少しずつ、
開いていく。
遠藤くんのチームが、
リードを許し始めた。
観客席からも、
「頑張れ!」という声と、
「もうダメか……」という、
諦めにも似た声が、
聞こえてくる。
彼の顔には、
疲労の色が濃い。
呼吸も、
荒くなっている。
それでも、
彼の瞳は、
決して、
諦めてはいなかった。
試合は、
最終局面へと突入した。
電光掲示板には、
残り時間、
僅か数秒。
そして、
1点差で、
遠藤くんのチームが、
負けていることが、
表示されていた。
私は、
息を呑んだ。
コートでは、
相手のガードが、
徹底的にマークされ、
パスコースが、
どこにもない、
絶体絶命の状況。
その時だった。
ボールが、
ゴール近くで、
遠藤くんの手に渡った。
相手ディフェンスは、
彼が小さいから、
まさかそこで、
何かできるはずがないと、
一瞬、油断した。
その「すき」を、
彼は見逃さなかった。
そして、
その小さな体からは、
想像できない跳躍力で、
リングへと跳び上がったのだ。
練習では、
私との練習でさえ、
一度も成功しなかった、
あのダンクシュートを。
「(奇跡……!)」
私の目の前で、
その一撃が、
ブザーと同時に、
リングを揺らし、
ボールがネットを通り抜けた。
劇的な、
逆転勝利だった。
会場が、
一瞬の静寂の後、
爆発的な歓声に包まれる。
遠藤くんは、
リングにぶら下がったまま、
信じられない、というように、
目を見開いていた。
その顔は、
汗と、
そして、
達成感で、
輝いていた。
あの、
公園で、
黙々と、
届かないダンクに、
挑んでいた彼が。
あの、
私に、
「あんたなんて、まだまだ無理」
と言われた彼が。
この大舞台で、
奇跡を起こしたのだ。
彼のチームは、
見事、
準決勝を突破した。
そして、
速報サイトの、
得点ランキングには、
彼の名前が、
上位に大きく表示されていた。
この調子なら、
得点王も夢じゃない。
(遠藤くんが、得点王……!)
私は、
胸が熱くなった。
彼が、
「背が低いから」という理由で、
諦めろと言われた過去を、
その努力で、
完全に、
跳ね返している。
その姿は、
誰よりも、
まぶしかった。
彼のチームは、
全国へは行かなかったけれど、
彼は、
間違いなく、
大会の、
ヒーローだった。
私にとっての、
最高のヒーロー。
全国大会に向けての、
練習は、
これからも続く。
そして、
遠藤くんとの、
公園での時間も。
私たちの、
秘密の特訓は、
まだまだ、
終わらない。
私たちのアオハルは、
これからも、
もっと、
熱く、
鮮やかに、
彩られていく。
全国の舞台で、
私は、
彼がくれた力を、
全て出し切るんだ。
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