空蝉の姫
竹笛パンダ
プロローグ
空蝉——それは、現世と彼岸を隔てる門。
『挾石』の門前に広がる世界。
その門の前には、誰にも知られぬ夢想の浜が広がっていた。
そこでは、時間が止まり、音も感情も、すべてが薄膜のように淡く漂う。
そしてその浜辺には、一人の少女が住んでいた。
空蝉の姫。
白拍子の装束をまとい、風に舞う羽衣のように、優雅に——。
姫は今日もひとり……静かに、舞っていた。
それは誰のためでもない。
ただ、ここに迷い込んでくるものたち。
まだ生と死の間にとどまっている、『戻れる魂』たちのために。
彼女は、祈るように舞い続けていた。
風も、波も、光さえも、彼女の舞を乱すことはない。
この浜では、すべてがやわらかく、そして静かに包まれている。
ここは、痛みによってほどけかけた魂たちが、一度だけ立ち寄る場所——
再び糸を結ぶことができるか、それとも永遠にほどけるかを選ぶ、境の地。
姫は『舞』を通して、魂の声に耳を澄ませる。
語られなかった悲しみ、押し込められた怒り、誰にも見せられなかった涙。
そのすべてを、舞のなかで聴きとり、感じとり、そして——赦す。
誰もその名を呼ばない、誰もその姿に気づかない。
けれど確かに、彼女はそこにいる。
そして、
その日もまた、一人の魂がこの浜に流れ着いた。
……少し、泣きながら。
細い銀糸のような命の名残をまとって、
声にならない叫びを抱えたまま——
波間に漂い、揺れながら、やってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます