気がついたら学年一のハーフ美女と婚約まで話が進んでいて

@395851

第1話運命の出会い

とある放課後。

一軒家の少しごちゃついた一室で


「まじでだるいー」


と天井をあおぎながら一ノ瀬翔は嘆いていた。

それを聞いたこの家の住人の黒髪マッシュでそこそこイケメンの部類に入る成瀬蒼は


「どーしたどーした」


とベットで漫画を読みながらさして興味が無さそうに尋ねる。


眉毛のキリッとした、ジャニーズにでもいそうなセンターパートをした翔は話し始める。


「いやー今度父さんと社交会?的なパーティに参加しないとダメになって」


この社交会は有名な企業の役員などが参加する場所だ。翔がこんな社交の場に参加するのも父親が財閥系の建設会社の社長だからである。


「それってそんなに嫌なことなん?」

「金持ちのおっさんに何時間も頭下げ続けたいやつがいるか」

「あーそれは嫌かー、けどワンチャン可愛い子いるかもよー」

「待て待てなわけねーだろ。そんなとこにいるのはだいたいが旦那の付き添いのおばさんだって」


翔は笑いながら続ける。


「まあ、金持ちでいいとこのおばさんだから熟女好きのあおにはいいかもなー」

「ちょいちょい俺はお姉さん好きであって熟女まではいかん」


あおも笑いながら答える。


そんなだらけながらも楽しい放課後を終えた2日後


翔は開いた口を塞ぐのにやっとだった。

そこには絶世の美女がいた。しかしそれは翔の驚きとは無関係だった。


そんな翔をおいて相手と父の挨拶が終わったので、なんとか挨拶を返し始める。


「は、はじめまして。佐々木さん、月城さん。息子の一ノ瀬翔です。よろしくお願いします」


挨拶で噛む翔を父の孝之は珍しそうにちらっと見たがすぐに気を取り直して相手の方と話し始めた。


翔が取り乱してしまったのは相手の月城さんがクラスメイトの月城かれんだったからだ。


月城かれんは見た目からもわかるようにヨーロッパ系とのハーフで学校でも1番可愛いと噂の人物だった。

見た目はハーフということもあり髪は色素の薄い茶色で目の色も少し茶色っぽい。そして外国人特有のはっきりした目鼻立ちだが、どこか日本人らしいかわいらしさの残っているようだ。体つきはぼんきゅっぼんという言葉を体現したかのような理想的なスタイルだ。


何度か似たような社交会に来たことのある翔でも、学校の知り合いと会うことは一度もなかったし、しかもその月城が隣にいる佐々木という人の恋人ということで紹介されていたのだ。

翔が驚いたのは学校の知り合いと出会ったからというより、容姿的に目立つ存在にも関わらず学校で浮いた話がひとつもない。そして成績優秀でいつも男に対しては冷たく、隙がない月城が笑顔をはりつけながら佐々木という人物の恋人だと紹介されていたからだ。

しかし同時に少しだけ納得する、彼氏がいたから浮いた話がなかったのか、と。

その佐々木という男は二十代半ばくらいだろうか。ちょっと狡猾そうな感じ。個人的にはあんまり仲良くしたいとは思わない。


「‥‥月城さんは翔と同い年らしいぞ」


と父が言う。考え事をしていた翔は一瞬遅れたがなんとか返す。


「そうなんですね。月城さんは大人っぽいので同い年には見えませんでした。」


こんな感じでなんとか翔は知り合いとの挨拶を終えたが、翔は新たな疑問に頭を悩ませていた。


それは実は最初出会った瞬間から翔は月城の正体に気づいていたし、月城もこっちを見て一瞬目を見開いたから互いに正体がわかっていたのだ。

そのため翔は知り合いというていで話しかけようとしたのだが、月城がこちらを見て険しい顔で若干首を振りながら、なにか呟いていた。


そこで翔は一旦黙り相手の挨拶と父の挨拶を聞いて、月城がはじめましてという風に挨拶してくるので自分もなんとなかそれに合わせて挨拶したのだった。


しかしなんで月城は知らないふりをしたんだろう。と一通り挨拶が終わったので1人風に当たれるバルコニーでまあまあきれいな街の景色を見ながら考えていると、後ろから


「一ノ瀬さん、ですよね。」


と若干の警戒心を含んだ声音で尋ねられる。


翔はちょうどその声の主のことを考えていたので驚くこともなく振り返りつつ応える。


「うん、月城だよね?」

「はい、先ほどは知らないふりを合わせてもらってすみません。助かりました。」

「それはぜんぜんいいんだけど、ここで話してると知り合いってバレるんじゃない?」


となぜ知らないふりをしたのかという疑問を一旦置いておきつつ尋ねると


「それは大丈夫です。同い年の人とたまたま話していただけと言えばなんとでもいい逃れはできますから。」

「まあ、それもそうか。ていうか、気になってたんだけど、なんで知らないふりしたの。」

「それは、、あなたと同じ学校でクラスメイトということがバレるとあなたに迷惑をかけてしまうかもしれないからです。」


と伏し目がちに月城はこたえる。

その姿はバルコニーを過ぎて行く風に髪が靡かれて、一目惚れさせてきそうな魔力があるようにも思える。

いったん思考を切り替えて翔は尋ねる。


「それはどういう意味で?」

「端的にいうと、あなたに近づいて仲良くならなければなりません。」

「なるほど、それは俺の存在がまだ月城の親に知られていないってこと?」

「はい父はまだ知りません。一ノ瀬さんは自分の立場を隠していますよね?」

「まあ、一応ね。いろいろ面倒があるから」


翔が自分の立場を隠すのは、簡単にいうと、昔から周りの大人や大人に指示された子供が自分に近づいてくることに嫌気がさしたからである。


「なるほど。それは好都合です。では、ここであったことは互いのために他言無用でお願いします。つまり私がその、恋人のような立場の人がいるということもです。」


少し月城の恋人のようなという言葉に引っ掛かりつつも苦笑いしながらこたえる。


「あーまあ面倒だよな。よそにお金持ちの恋人がいるなんて知られたら。まあ、秘密は守るよ。」

「あの人のことを恋人と思ったことなんてない」


苦々しい顔でぼそっと月城がもらす。翔は月城とこれまであまり話たことはなかったがおそらく彼女が本音を言っているのだとわかった。

月城ははっとした様子で言った。


「すみません。なんでもないので忘れてください。」

「そっか月城もいろいろ大変なんだな。」


翔も立場のせいでいろいろ振り回された経験があったので、なんとなく、親に指示されて月城は佐々木という人物と恋人関係になったのかなと察した。


「あまり長居すると怪しまれるので私はもう行きます。秘密忘れないでください。ではさようなら。」


月城は一方的にそう言うと去っていった。

翔は完全に「さようなら」と言うタイミングを逃していた。


その後つつがなく社交会は終わった。


翔は帰りの車の中で、いつも隙がない月城がもらした「恋人なんて思ったことない」という言葉を思い出し、もしかしたら月城は限界に近いのかもなと思った。














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