とある日常~飛行船に乗って~

昼下がりの午後、15歳の少女イヴは暇を持て余して

いた。暇といっても仕事中である。


発着場に停めた小型飛行船の操縦席から誰もいない外を見つめて溜め息をついている。


彼女は、小さな飛行船会社イヴ航空の社長で

操縦士でもある。亡き父の跡を継いだものの、

その父が起こしたとされる飛行船事故の影響で

乗りたがる人がいないのだ。


(やっぱり…パパの様にはいかないのかな。)

イヴが憂鬱に耽っているとカンカンカンっと搭乗口

の階段をのぼる足音が聞こえてきた。


(いけない!お客さんだわ!しっかりしなさいイヴ!)

頬をぺちっと叩き自身に気合いを入れて搭乗口へ向かうとそこに居たのはイヴのよく知る者だった。




「やっほー、調子はどう?」

声の主は数年前に知り合った少女、サラだ。

「どうって…見ればわかるでしょ?いつも通りよ。」

「いつも通りの閑古鳥か~」

「しょうがない!サラちゃんがお客さんになって

あげよう!」

サラがイヴの前に立って満面の笑みで答える。

「お客さんって、あんた行く場所あるの?」

「あるよ~。ガラクタ屋に材料を仕入れに行くんだ~」

それを聞いてイヴはハァとため息をつく。

「ガラクタ屋?そこはウチの路線にはないわよ?

それくらい分かってるでしょう?」

それを聞くとサラはいたずらっぽく笑い、

「でも~お客さん、いないんでしょう~?」

「ハァ、もう仕方ないわね。その通りよ!

運賃はちゃんとあるんでしょうね?」

「もちろん!はい、これ!」

そう言うとサラはイヴの手のひらに運賃を乗せて

飛行船の座席に座った。

「じゃあ、そろそろ行くわよ?」

そう言ってイヴが搭乗口を閉めようとすると

遠くから声が聞こえてきた。



「おーい!待ってくれ~!」

人影が近づいて来るとその声は男性のものだった。

「ハァハァ、間に合った、かな?」

息を切らせて搭乗口の階段を登ってくるのは

困り眉でなで肩のあまり覇気のない男だ。

「あれ~?ダレルじゃん!」

サラが男の顔を見て言う。

「あら、本当だわ。ダレルさん御機嫌よう。」

イヴも気づいてお辞儀をする。


彼はダレル・クローニン。

サラの義父であるロバートの助手の若者で

サラにはよくいたずらを仕掛けられている。


「嗚呼、どうも…ってサラもいるのかい?」

「そうだよ~」

サラは足をパタパタさせながら答えた。

「ダレルさん、すみません。今からサラの要望で

路線外の場所へ行くんです」

「そうなのかい?それで、どこへ向かうんだい?」

「はい、ガラクタ屋なんですけど…」

それを聞いてダレルの顔が明るくなる。

「なら丁度いい!私も博士に頼まれてガラクタ屋へ

仕入れに行く所だったんですよ~」

「ハァ、そうなんですね。分かりました。

でも繰り返しますけど路線外なんですからね?」

「もうこの際、路線に組み込んじゃえば~?」

サラがニヤニヤしながら言う。

「そうして貰えると助かるなあ。私もよく仕入れに

行くから。」

「あ~もう、ロバート家の人ったら!

…まあ、考えておくわよ…」

「あ~!イヴのツンデレだ~!」

「うるさいわよ!ツンデレじゃない!」

「ハハハ、仲良しだね」

二人のやり取りを聞いてダレルが笑う。

「さて、本当に出発しますよ!準備は良いですか?」

「はーい!」

搭乗口が閉まり、重りが上げられ、

飛行船にガスが蓄えられる。プロペラが回りだし

飛行船は浮かび上がった。

進路を確認しながらイヴが無線を手に取る。

「この度はイヴ航空をご利用いただき

ありがとうございます。次の目的地はガラクタ屋、

ガラクタ屋です。暫し空の旅をお楽しみください。」

「あっそれやるんだ~」

「…うるさいわよ!」

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