冷んやりとして滑らかで、苦い。

夏の終わりに、海が蒼白く光る。
幻想的な光景だが、凝っと見つめては
いけない。
       目が、合ってしまうから。

死んだ者は海へと還る。そして想いが
蒼白い鬼火となって、光る。

いつしか 兄 と呼ぶ様になった彼から
聞かされた話だ。幾らか年嵩だったから
いつの間にかそう呼ぶようになった。
絵を描く事を兄は喜んでくれたのだ…が。

次第に長じて生まれる齟齬と、小さな棘。

死んだ者はもう二度と戻らないから、多分
突き詰めてしまうと後悔しか残らない。
鬼火は冷たくて滑らかで、苦い。
兄の教えてくれた仕掛けで鬼火を捉える。

薄荷の様な冷たさと、後悔の様な苦さ。
そして夢の様な滑らかさだ。


一人になった自分は絵を描いて暮らす。
兄が褒めてくれた静物画。

そして、海とか諸々。