第2話 マドンナとは

 僕が通っている四ヶ丘高校には学校のマドンナ、注目の的、アイドルと呼べる人がいる。


 おいおいアニメの見過ぎだ。学校にマドンナ?そんなのいるわけない。


 確かに学年に一人や二人、かわいい子が居てその子が男子の中では人気が高いなんてことはよくあることだ。


 それを誇張して言っているだけだろうなんて思われるかもしれないが本当にいる。


 そんな人がこの学校、そしてもっと言えば僕のクラス、その上、僕の隣の席に座っている。


 名前は霜月乃蒼しもつきのあ


 顔は可愛いというよりも大人っぽく色っぽい。目つきが凛としていてまつ毛が長く、唇、そして肌も潤っていてシミ一つもない。髪は黒髪ロングであり絹でできているのではないかと思えてしまうほどの艶やかさである。


 そして完璧とも思える顔に負けない程、胸、そしてお尻が大きい。噂ではJカップにに届くのではないかと言われているほどであり、全男子生徒が彼女の一挙手一投足に釘付けである。身長も高く、百六十センチ後半の身長をしており僕を含め一部の男子生徒は彼女と同じ、又は抜かされてしまっている。


 そんな彼女は僕の隣で今日も男子生徒に話しかけられている。


 が、彼女はいっつもつまらなそうな、どうでもよさそうな顔をしている。

 

 確かにあれほど露骨に顔をだらけさせながら話をされたら一歩線を引きたくなるのも分かる。けれど、決してそんな顔をせずに話をしている生徒だっている。


 例えば、隣のクラスにいる弓道部の山内君はイケメンで彼女に対して鼻を伸ばしてデレデレしながら話をしているわけでもないし、一つ上のイケメンで頭もいい生徒会副会長もしている優等生の酒寄君もそうだ。


 この人たちは彼女に対してあからさまに厭らしい目線を送っているわけではないし、そんな目で見ていることを見たことは無い。


 これはあくまで全部僕から見た彼女であり、別に彼女は一歩線を引いているなんてこともないのかもしれないが。


 ここまでだらだらと語ってきた僕はというとイケメンというわけでは決してない。


 四捨五入して百七十センチという男にしては身長も低い。


 唯一自分の特徴ともいえるのが、顔が女の子のように見えるほど可愛げがあることくらいである。


 僕はこの顔が好きではないが、もうずいぶんと前に男らしくなることは諦めているのでもう振り切って髪をボブカット位に伸ばしている。


 男子生徒用の制服を着ているため、男装した女子のようで高校に入ってから仲良くなった山下充希やましたみつきからは


「お前は下手な女の子よりもかわいい」


 と言われるほどである。


 少しムッとするが、もう諦めたことなのでもう何も言う気が起きないから訂正もしていないし、仲良くなるにつれ、充希も何となく察しがついたのか僕を男友達扱いしてくれるようになったからそのことはいいだろう。


 まぁ、僕の事はどうでもよい。


 とにかくそんなアニメ、ラノベ、漫画から出てきたのではないかと思えてしまうほどの超絶美人な霜月乃蒼という生徒が存在しており、その隣の席は僕である。


 そして、ここまで何故色々説明したのかと言えば、男子に対してどうでもよさそうに接している霜月乃蒼が、僕に対しては違うのではないかと考えている。


 オタクの妄想だと思われるだろうし、実際僕の自意識過剰な説もあるがどうにもそんな気がするのだ。


 ほら、今だって。


 僕が横を向くと、彼女もそれに反応したのか僕へと視線を向けニコリと笑う。


 一体どういうことなのだろうか。彼女はこうして笑顔を向けるだなんてほかの男子にはしていない。いつもつまらなそうにしているか愛想笑いをしているかのどちらかなのである。


 僕と霜月さんの接点は今のところほとんどないし、自分から彼女に話しかけることはしてないし、唯一話した記憶があるとすれば消しゴムを落とした時くらいだ。


 まさか、僕の事を好意的に捉えているというわけではないだろう。僕は女の子っぽい顔つきをしているせいで、過去にどれだけ異性として見れないと言われたことか。


 未だにあの言葉が.....まぁ、いいやその話は。もう終わったことだし。


 そんなことを考えていると、いつの間にかチャイムが鳴っていたようで授業が終わっていた。


 すると、どこからともなく彼女の元へとクラスの男子生徒。その中でも一軍と呼ばれる人たちが彼女の元へ。


 僕はあまり関わりたくもないからひっそりと席を立ち、充希の元へ。


「充希ー、助けて。いい加減、席替えを許してくれないかなぁ。あの教師。面倒くさいんだけれど。毎度毎度、あの人の周りに群がるから強制的に移動させられるし」

「無理だろうなぁ。席替えがあったのもあの頑固教師の気まぐれだし」

「だよね、はぁ」

「落ち着け。ストレスはお肌に悪いぞ。ほれ、これをやろう」


 そう言って鞄から出したのは、僕が好んで食べているプッキーという細長いチョコ菓子である。


「ありがと。心が、癒されるよ」

「そりゃよかった」


 そう言って爽やかに笑うこの男は、山下充希。


 高校一年から友達になり、僕の事をちゃんと男友達として見てくれて嫌なことをしないい人。親友と言ってもよいくらいの仲である。


 顔はイケメンと言ってもよいだろう。スポーツもできる。だが、部活には所属はしておらず、帰宅部である。


「相変わらず、すごい人気だな」


 充希がちらりと視線を向けそんなことを言った。


「ほんといい迷惑だよね」

「まぁ、あの綺麗さであの体つきしてたらね。気持ちは分からなくもない」

「そうだよねぇ。充希君は告白して玉砕したから気持ちは痛いほどわかるだろうね」

「くっ!!それを言うな」


 そう言って充希は胸を抑えて机に突っ伏した。


 充希の偉いところはちゃんと今では諦めて、霜月さんへとあんな風にへばりついていないことだろう。


 未練はあるだろうけれどね。


「あ、今日の放課後。図書室で勉強しようと思ってるんだけれど一緒にしない?」

「ごめん、今日は妹の面倒見なきゃいけなくて」

「そっか。美奈ちゃんまだ小学低学年だもんね」


 そう、この充希には可愛い妹がいるのだ。


 充希の家に何回か行っているため美奈ちゃんの可愛さは知っているし、美奈ちゃんを出されてしまっては僕も強引に誘うこともできない。


 そうこう話していると次の授業になり、そのまた次の授業と繰り返し放課後になった。


「じゃ、またね」

「また明日ー」


 充希と教室で別れ、図書室へと向かう。


 この場所は静かだし、人もあまりいないから心地がいい。


 今日はテスト初日の教科を集中的にやろうかな。


 そう思い、鞄から教科書やノートを出し復習をしていく。


 

                 ***


 やけに時計の音が大きく聞こえ、集中力が切れてきたころ。


 外を見ると暗くなっておりそろそろ図書室も閉まってしまう時間となっていた。


 さっさとカバンの中に広げていた教材と筆箱を突っ込み、図書室から出て学校外へと足を向ける。


 この学校は駅からそれほど遠くはない為、歩いて十分ほどで駅に着く。


 家に帰って何をしようと考えながら駅へと向かっていると、途中でやけに大きな声が聞こえた。


 見るとそこには男の人三人に囲まれた霜月さんがいた。


 


 

 


 


 




 

 


 


 


 


 

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