第53話 カルフとキャラバン(1)
カルフを連れてキャラバンに戻ってきた。
ミシュアがやってきて、軽く情報共有。監視の目が増えてるという報告を聞きながら、こちらからは呪術師のあてがついたこと、古い時代の情報も得られそうなこと、ザルカバーニから出るときは一悶着ありそうということを話しておく。
その間、カルフはコーレに任せて、シャオクを見てもらうことにした。ハイダラもそちらに護衛目的でついて行ってもらう。
キャラバンのテントでミシュアと一通り情報共有を終えると、彼はまたなんとも頭が痛そうに顔をしかめた。
「なるほど。条件が厳しい割に、長老達はあっさりと教えてくると思ったら……そういうことですか」
「何かあればザルカバーニで対処してくれるから、でしょうね。そうでなければもう少し族長達も話すのを渋ったかしら」
「それはもう。おかげで石積みの部族の話も、表ではかなり集めにくい」
ミシュアは合点がいった様子だが、その結論にはため息を隠せないでいた。
これを踏まえて今後の方針を立てないといけない。
「ともかく、ここから出るまではまだ動きやすいから、その間に手を考えないとね。管理部族との交渉は考えておくとして、その前に、外では集めにくい情報をもっと集めないと」
「アルカース、石積みの部族、夢見の部族、ですか」
「実のところハティムを除けば、一番詳しそうなのが管理部族なのよねぇ」
その管理部族も内側がごたついているようなので、チャンスが無いわけじゃない。
……もっと状況を複雑にかき回した方が良いかも。今はちょっと、わたし達に注目を集めすぎている。それがジャナーとの契約だったとは言え、だ。
「もっと別の騒ぎが必要かも」
「……そちらは任せます」
さて、そうしてわたしが頭を悩ませている一方その頃。
コーレ、カルフ、ハイダラの三人はシャオクの元を訪ねていた。
シャオクはカシャーに見守られながら、ハーディスが獣の世話をするところを眺めている。すぐ側には白い鮫のターレがいて、二人を守っているそうだ。
そのターレが「ブフ」と鳴いて、やってくるコーレ達の方を向いた。カシャーが立ち上がり、見知らぬ人に顔をこわばらせ、シャオクを背にかばう。
「コーレ? そちらの方は?」
「名前はカルフ。呪術師の弟子、のような人です。師匠の方からの指示で、一旦見てもらうことになってます。構いませんか?」
カシャーはカルフを見て、頷くかどうかしばし迷った。黒衣の少女は薄い金色の瞳を、すでに、シャオクへ向けている。
カシャーの向こう側を見通しているような、静かで透き通った目だ。
……それだけではない。なんと言えばいいのだろう、カシャーにはカルフが少し光っているように見えた。うっすらと白いような、黄色いような……星の輪郭のような輝きで縁取られているような。
ターレも何か気になるのか、滅多なことではシャオクの元を離れなかったのに、このときは自ら腹を滑らせてカルフの元に向かった。
カルフはそれに気づいたようで、膝を折って屈むと、そっとターレの背を撫でた。
「ブフ!」
「……そうですね。なんだか、懐かしい気がします」
カルフが手を離せば、ターレは仕事に戻るとばかりに背びれを揺らしてシャオクの側に戻った。
その様子を見ていたコーレは不思議そうに尋ねる。
「言葉がわかるんですか?」
「いいえ。わかるのは、気配……のようなものかと」
「何だかはっきりしませんね」
「そうですね」
コーレは肩をすくめて、カシャーに事情を話し始めた。ザルカバーニの街中で声をかけられたこと、ハティムを紹介されたこと、そのハティムの代わりに見てもらうこと……。
「わたしには呪いを扱うことはできません。ハティムも、才能が無いと言っていました。ですが、どんな呪いかを見通す術を教えてもらっています。危険は無いと思います」
コーレの説得とカルフの説明に一応納得したのか、カシャーは背後でぺたんと座っているシャオクを示した。
カルフはシャオクに近づいていき、軽く、手に触れた。
その瞬間、シャオクがその手を逆につかんだ。
目を見開き、引き裂くような笑みを浮かべる。
「ソコニイタカ。ミツケタゾ、星ノ瞳」
「ハティムと同じ……蛇の呪い、ですか」
立ち上がり、まだ何か言いかけたシャオクは、そのまま一歩を踏み出せずにふらりと倒れ込んだ。
その後ろには、頭に拳を落としたカシャーがいる。
「え。え?」
「あ、……その。つい」
困惑するコーレと目をそらすカシャー。何も言わずにその状況を見守るハイダラと、考え込むカルフ。
何となく気まずくて、誰も口を開かなくなる。
このひどい状況は、わたしが様子を見に行くまで続いたそうだ。
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