第42話 今後の予定を立てる

 そんなにトラブルを期待されていたとは知らなかった。もう少し張り切るべきかもしれない、と悩んでいいるうちに、わたしはハイダラを紹介されて、少し話、またすることがなくなってしまった。実務から遠ざけられている感じがする。

 まあそれはともかく、ミシュアは急いで生活基盤を立ち上げたいようで、モタワとハーディスにハイダラを引き合わせたり、忙しくしているようだ。漏れ聞いた話では、ザルカバーニでも水呼びの身の安全はある程度保証されているそうなので、ユスラには狩人達と連携して防衛の要になってもらうべく工夫をこらしているらしい。

 なんということだろう。ミシュアが優秀でやることがない。

 そろそろ一人歩きしようかしら、と考えていると、わたしは声をかけられた。


「ミリアム、少しいいだろうか」

「何かあったの?」


 声をかけてきたのはシャオクの騎士、ウェフダーだった。

 見回りをするかシャオクの世話をしている彼が声をかけてくるのは、不穏な兆候を見つけた時だけだ。カシャーの占いで警告でもうけたか、それとも刺客の類いを見つけたか……。


「複数人に見張られているようだ。僕とラティフの意見が一致したので間違いない」

「ああ、ミシュアから報告が入っているわ。わたし達はこの街では注目の的なんですって」


 これまでやったことを考えれば自然なことだ。

 むしろ気にすべきことは、この街は外に開かれていないだけで、外の情勢の影響を結構受けていそう、という点だろう。

 シュオラーフの第三王子シャオクを連れていることは、何らかの波乱を巻き起こしそうだ。


「それなら、あまり刺激しない方がいいかな。警戒は続けておこうと思っていたけれど」

「警戒していいわよ。ザルカバーニの調停官が介入しても、公平に守ってくれるなんて限らないんだから。誰が見ても不用意に手を出せない、と思えるようにしたいわね」


 まあ、それはそれで無理難題ではある。

 何しろこちらのわかりやすい戦力はカルサイ、ラティフの狩人二人と騎士ウェフダーの計三人。わたしが眷属を呼び出すのは明らかに問題の種だし、アカリはわかりやすい戦力じゃない。

 小規模キャラバンとはいえ、保護対象に対して護衛の数が充分ではない、というのはわかりやすい穴だろう。本当は眷属がいるから問題ないのだけれど、周りにはそう見えない。つけいる隙があると見なされれば、それこそ無用のトラブルを招きかねない。

 とはいえ、わたし達に出来ることではないので、気にしてもしょうがないのだが。

 これだけ監視されていれば、内実はもうばれているはず。まだ手を出してこないのは、わたし立ち寄り、同業者同士で牽制し合っているからだろう。この状態が続いているうちに打開策を見つけたいところだ。


「事前の取り決め通り、重点的に守るのは調達班と王子達。わたしとアカリに関してはトラブルメーカーとして割り切るしかないわ」

「自分のことをそんな風に言わなくてもいいだろう」

「事実だもの。それに、都合の悪いことではないしね」


 いっそ向こうから仕掛けてくれれば、わたしかアカリで捕まえていろいろ話を聞き出せる。カルサイ、ラティフ、ウェフダーの他になんかやばいのがいるぞ、と警戒させることも出来るのに。


 さあ来い、敵。わたしはここよ-。


 思いは伝わらなかった。わたしはこれから数日間、暇な思いをした。


「ようやく生活基盤が整ってきました」


 一仕事終えた風のミシュアの報告を聞きながら、わたしは最近姿を見ないアカリについて思いをはせる。わたしと違って立場が無いから彼女は身軽なのだ。何かしてそう。ミシュア達は気づいているだろうか。

 ともかく物資調達は順調。持ち込んだ物資の換金も進んだし、大まかにザルカバーニの最新情勢もわかってきたらしい。

 ミシュアは何か覚悟を決めた顔でわたしに言った。


「そろそろ本来の動きを始めても大丈夫でしょう。どの問題から手をつけるかはそちらで決めてください。ただ、護衛の数が限られています。基本的に自由に動けるのはあなたを中心とした一班のみで、物資調達班と交代しながら、でお願いします」

「アカリは自由にやってるみたいだけど」


 なんとなく告げ口してみた。


「しばらく単独行動するそうですよ」


 ミシュアは肩をすくめた。すまし顔に見えるが、よくよく見ると苦しそうというか、胃の痛そうな顔になっている。

 この様子、止める間もなかったのだろう。哀れな。


「まあ、ここならアカリも一人で逃げたりしないでしょうし、いいけど」

「……てっきり、ずるいとか言うと思いましたが」

「んー」


 アカリの性格上、必要でなければ一言くらい断りを入れる。現にミシュアには言っている。一方でわたしには黙っていた。その方が後で怒りを買いそう、と彼女なら考えるだろうに。

 つまり、相応の言い訳が立つ状況ということ。

 トラブルがあったと見た。


 それならどうせ、少ししたら事情はわかるだろうし、気にしなくていい。びっくり箱が開くのを待つみたいに楽しみにしていよう。

 ミシュアはそれを聞いたら胃を痛めそうだから秘密だけど。


「交代制が終わるとしたら、ハイダラ以外の伝手が見つかってからかしら」

「その通りです。結局彼がいなければ我々はザルカバーニを歩けない」


 護衛の有無というだけでなく、この街でやっていいこと、いけないことの区別がつかないからだ。さもありなん、なんなら一本通りを間違えただけで行方不明になってもおかしくないのがこの街なのだから。


「そうね、それなら当分はウェフダーを借りようかしら。それとコーレ。ハイダラに聞いて呪術師を探しつつ、アルカースに関する情報や王国中期や初期の情報を洗ってみましょう」


 どれも基本的に人に当たる作業だ。これを通してザルカバーニに知己を作り、活動もしやすくする。石積みの部族の話や砂漠の影の情報など、より深い話に関しては関係性が深まった後にようやく手が伸ばせそうな話は後回しだ。


「それにしたって早足では? ハイダラがすぐに紹介できるところでそんな話をしてくれる人がいるのかどうか……」

「どうかしら。……というより、心当たり、あるでしょう」

「……はあ。藪をつつくのはそちらにお任せしますよ」


 ミシュアは肩をすくめる。

 向いてないことは人に放り投げる。ミシュアも徐々に慣れてきたようだ。

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