名刺で暇つぶし

@katakurayuuki

名刺で暇つぶし

「ふぁ~~。」

 あくびも出る。ここは新社会人達が集まるマナー講習所。それも後半戦ときた。

 俺は先輩として(もしくは見張りとして)来ているわけだが、最初は初々しい社会人のひよっ子どもを見るのが面白かったが、ただ見るだけではもう飽きてきてしまった。

 そして最後に異業種の名刺交換会をやっている最中だ。

 「これで最後。これで最後。」

 言わないと延々と暇なマナー講習が続きそうなので独り言を言う。


 そんな折り、ペーペー達が交換していた名刺がちらほらと落ちているのが目に入った。

 名刺なんて社会人にならないと使わない。いや、使う人もいるだろうが使わない人だっているだろう。扱いなれてない名刺を滑らせて落としてもたくさんある名刺だからひろわないか、気づいてないか。

 しょうがない。ひろってやるか。

 暇なこともあり、おっとこしたおっちょこちょいの名前でも拝んでやろうと思って見てみたら、笑ってしまった。

名前が山田太郎なのだ。

そこまではいい。そういう名前もあるだろう。でも会社の所が明訓高校なのだ。役職はキャッチャーにしている。完璧にドカベンじゃねーーか。

 こいつ、遊んでやがる。

そういいつつ、ちょっとした暇つぶしにはなったかなと思い、下に落ちてる名刺たちを見てみた。

 『もしかして』

 俺は一つ一つ、誰かが落とした名刺を拾っては確認してみた。すると、

 岩城正美、殿馬一人、里中智までみつけた。

 本当の名前に混じってドカベンの名刺を作って遊んでやがるやつが一人だけいる。

 しょうがねえ奴がいるもんだなぁ。と思いつつ多分最後の名刺だと思うやつを見つけた。その名前は、

 水島新司


 暇な見守りだったが、遊び心があるやつのおかげで少しは楽しくやれたなと、月明かりに照らされた公園を散歩する。

 ふと、ちょうどいい手ごろなサイズの石を見つけた。

 それを手に取り、構える。息を整え顔だけ前に向ける。左足を前に踏み込みながら重心をググっと下げて右手を持ち上げる。あとは腰の回転に合わせて腕を振り、石を池に投げた。

 スーツでやるのは大変だったが、久々にやったアンダースローは悪くないスピードとコントロールだったと思う。

 帰り道。会社に野球クラブがないか先輩に聞いてみるかと思いながら気分よく帰ったのだった。

 

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