ナツの子

さくや子

幸せな時間

「夏なんて大っ嫌い‼ 夏なんか無ければいいのに何で毎年来るわけ? しかもだんだん暑く長くなっているし意味わかんない。ホントに早く終わってほしい‼」

 まだ大人になりきる前の少し高い声で友人—―レミは文句を垂れている。放課後のフードコートで夏限定ひんやりスイーツフェア、特大☆スペシャルクールかき氷~5色のアイスとフルーツ添え~をつつきながら。

「いやスイーツフェアとかは嬉しいんだけどさ、ていうか夏限定じゃなくて年中やってくれって感じなんだけどもまあ一旦置いといて、こんなに毎日毎日猛暑日になる必要なくない? 暑くてもせいぜい30℃でいいでしょ。湿気も多すぎる65%でいい。そんでもって朝と夕方には24℃くらいに下がってほしいわけ。だって毎日学校来るだけで汗ベタなんだよ? 一日中汗臭いんだよ? もぉ最っ高にサイアク‼ 華のJKの夏がこんなんでいいわけないでしょ⁉」

 レミの愚痴はまだまだ止まらない

「しかもさぁ、黒いアイツとか足たくさんのアヤツとか吸血のヤツとか何か諸々いるし、アイスは溶けるしコップはすぐ汗かくし、バテるし怠いし、外は灼熱なくせに室内は冷房ガンガンで寒いし、陽射しが強くて目痛いし焼けるし、いや日焼け止め塗れよって話なんだけどめんどいし、日傘は風強いと差せないし、夏で浮かれてる奴は大体年中浮かれてるし、進学先とか考えなきゃだし、ララには恋人できないし」

「って、私は関係ないでしょう⁉」

「あるよ~。だってララには幸せになってほしいもん」

「なにそれw て言うかレミも居ないじゃん」

「あははー」

「うむ。毎日暑いのに頑張っているレミにご褒美あげちゃうよ」

 私は頼んだパフェ(夏限定☆縁日パフェ~熱中症対策済み~)に付いてきた半解凍のタイ焼きを残りが少なくなっているレミの器にのせる。

「わぁありがとう―—・・・え、なんかしょっぱいんだけど」

「ふふっ、そりゃあ熱中症対策済みだからね」

「なにそれw」

 まあこれはこれで美味しいのかな?? と不思議な顔をしてタイ焼きを頬張るレミをぼんやりと見つつ残りのパフェを食べる。

 レミには言わないが夏はレミに似合うと思う。喜怒哀楽がはっきりしていて屈託なく笑うところ、クリっとした目がたまに悪戯っ子のように光るところ、芯がまっすぐなところ、社交的なところ、根暗でコミュ症な私さえ引っ張ってくれるところ、自身の弱さや悩みも受け入れられるところ、出会って一年と少しの私でもわかる。眩しいほどレにミは輝いている。私にはそれが夏を背負っているように見えた。

「どしたの、ぼんやりしちゃって」

「う~ん? レミが今日もかわいいなぁと思って」

「も~照れる~、ありがと♡」

 見飽きることのない笑顔、好きだなぁと感じる。


 私とレミの出会いは至って普通だ。高校に入学してクラスが同じで出席番号が前後だったから話すようになり、それで仲良くなったのだ。

 ちなみに高校でできた友人の殆どがレミを通して知り合っている。

 

「休み近いとテスト三昧ざんまいなの何なん?」

「それな、怠すぎ」

「そういえば最近うちらの副担がモズクにハマってるらしいよ」

「え、なんで?」

「なんか頭にいいらしい」

「www」

 などと他愛もない話をして店を出る。

「じゃあ、またあした~」

「うん、またね」


◇◇◆◇◇


 夏休みに入っても私たちは毎日のように遊んだ。祭りに花火、映画に水族館、オープンキャンパスなんかも一緒に行った。また、特に目的がなくてもブラブラしているだけで楽しかった。

 勉強?そんなものは休みが明けて提出するまでに課題が終わっていればいい。


「ララ! あたし彼氏できた!」

 夏休みも後半になってきたころ、友人は笑顔でそう言った。

「そっ、う。おめでとう」

 おかしいな。友人を祝福しなくちゃいけないのに。心から喜べない、どこかショックを受けている自分がいて一瞬言葉に詰まってしまった。

 そんな私の様子に気づくことなくレミは、

「えへへ、ありがと」

と、照れ臭そうに笑う。

 そのあとの会話はよくわからなかった。


 それからというもの私とレミの時間は減った。もちろん、私が蔑ろにされているわけではない。今まで通り仲のいい友人なのだが、もう少し一緒に過ごす時間が欲しいと思うのは我儘だろうか。

 だが付き合って日の浅いカップルを引き離すほど私は野暮じゃないし、なによりレミが幸せそうにしていると何も言えない。


 夏休みが終わって学校生活に戻ったが、登校は一緒でも放課後は一緒じゃなくなり、休日も予定が合いにくいのは相変わらずだ。

 もともと友人が少なく同じ方面の子が居ない私は一人で帰ることが多くなった。

 あるときフードコートの前を通りかかるとレミと男子がスイーツを食べながら笑いあっているのが見えた。あの男子がレミの彼氏か。初めて見たように感じる。

 また身勝手にも、あの子は私の一番だけど私はあの子の一番じゃない、あの子の隣にいるのはもう自分じゃあないのだと思うとひどく寂しくなった。

 気付かれないようにさっと通り過ぎ、店を出る。

 頬を撫でる風が涼しさを帯び、金木犀がふわりと香る。

「もう秋か」

 そう呟いて、私は歩き出す。

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ナツの子 さくや子 @hyouga-tsurara

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