第52話 仮定を置く者
声は、シンキロウたちが潜んでいる廃屋の外から聞こえてきたわけではなかった。
もっと遠くから。大きな音量で。
肉声ではない。マイクのテスト中と言っていたが、これは拡声器を通した声だ。
痩せっぽちの仲間だった吊り目女子の拡声器だ。
金属粘土製の武器がそれを出したハセガワ自身が消えた後も残っているように、あれも残っていたわけだ。
金属粘土がハセガワ以外加工できないが武器としては誰でも使えるように、ただの拡声器として使う分には誰にでも使えたということ。モノを出すタイプの能力には、そういう特性があるのではないかと、ハセガワが予想していた
「勝ち残っている皆さん、こんにちは。ボクはカムイって言います」
カムイは名乗った。シンキロウはすでに知っているし、一応オチアイとハザマにも教えておいた。
「ボクは今、仲間の1人が残してくれた拡声器を通してみなさんに語りかけています」
カムイの声は、苦悶の表情を浮かべているせいでよくわからないがハザマも聞いているはずだ。オチアイは聞こえているはずだが、顔を伏せたままで反応らしい反応をしない。
「ボクからお話があります」
カムイは隠れている誰かのためにもと、まずは現状を話し始めた。
なんのつもりだ?
訝しむ。
すぐに察しはついた。
ああ、挑発か。
要するにカムイのやつは、どこにいるのかわからない、おそらく隠れているであろう残った者たちを探すために歩き回るのが面倒になったのだ。
探し回るのではなく、残った者たちの方から自分のところに来るように仕向けるつもりなのだろう。声の聞こえる方か、提示する場所に来させる。
その方が楽だし、自分が有利に戦えそうな場所で待ち構えられる。
だがカムイが自分に有利な場所、条件を整えて待っていることくらい、誰だって予想できる。
隠れていないで出てこい臆病者だの卑怯者だのと罵声を浴びせたところで、わざわざ敗色濃厚な戦いに出向く者がいるとは思えない。 何かうまいこと言ってこちらを乗せる算段があるのか?
しかし、下手すれば動けるものたちが続々とカムイの元に集まってしまうのではないか? それこそ正体不明のやつも含めて。まずありえない話だが。
ハザマのやつをダシに使うつもりか? 自分を倒して背の高い彼を救いたくないかと。それなら来るとしてもシンキロウとオチアイだけになる。
それで行くなら呼び出されるまでもなく行く。
しかし、話はシンキロウの考えとは違う方向に進む。カムイが予想外の問いかけを発した。
「みんなは生き返った後、ここで使っていた能力はどうなるかって考えたことがある?」
それは考えるまでもなく、失われるに決まっているだろう。
能力はあくまでもここで戦い合うための手段として与えられたものに過ぎない。戦いが終わったら必要ない。
そもそも、質量保存の法則やらなんやら物理法則を無視したような能力が使えるのは、ここがこの世ならざる世界だからではないか。
だが、問いかけてくるということはカムイの考えは違うのか?
「ボクは、生き返った後でも能力は使えると思っている」
やはりそうか。しかし、どんな根拠があってそう考える。
「スズシロココって女の子が最後に残した言葉からその可能性に気づいたんだ」
ああ、アイツはやはりもう残っていなかったか。明言はしてないが、スズシロを倒したのはカムイなのだろう。
「『死んでからとはいえ、また思い切り走れただけでもよかった。
二度と走れないはずだったのに。
でも、生き返れてたら、また思い切り走れてたかもしれないのに』って。
見覚えがある人いるかな? 生前は車椅子に乗っていた女の子だよ。
その子はものすごい脚力を発揮できるっていう能力だったんだけどね。
彼女はどうもその能力のおかげで走れていたみたいなんだ。
二度と走れないはずだった彼女は能力のおかげでこの世界では走れた。
でも、生き返ったら走ることはできないんじゃ?
ボクも最初は不思議に思った。
手術の予定でもあった? 治る可能性があった?
それなら、『二度と走れないかもしれなかったのに』って言うはず。
じゃあ、なぜスズシロさんは生き返ったらまた走れるかもなんて言ったんだろう?
少し考えたら答えが出た。
彼女は生き返ってからも能力が使える可能性が高いと考えていたってね」
それはまあわかる。
聞きたいのは、スズシロやカムイが生き返った後も能力を使えると仮定した根拠だ。
「空からの声は言っていたよね。
ボクたちに『能力を差し上げた』って。
貸すとか、この場限りとは言っていない」
そうだったとは思うが、根拠としては薄すぎる。
そりゃ、差し上げたと言うからには、能力はこの戦いが終わった後も、シンキロウたちのものだと捉えられる。生き返った後も能力を所持したままと解釈はできる。
しかし、言葉尻を捉えているだけではないか?
「空からの声はこんなことも言っていた。
『この場で気がついてからの記憶は生き返ったら全て忘れる』って」
それはむしろ生き返った後、能力は失われる根拠じゃないのか? 能力が失われるのだから、能力の記憶だって必要ないわけだし。
「その一方で能力の情報についてはこんな風に言っていた。
『能力に関する情報は、この場で気がつく前に前に記憶の中に入れた』」
あ。と言いそうになった。
「能力に関することは、『この場で気がついてから』の範疇には含まれない。したがって生き返った後も能力に関する情報を忘れることはない。能力の記憶、知識は残る。
それはなぜ?
なんのために?
能力は生き返った後も使えるから。
能力を生き返った後も使うために」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます