第48話 入り乱れる者たち

 残り11人中10人がこの場に集ってきた。

 それがヒビクにとって何を意味するか。

 形の上ではチームメイトであるカムイたち3人を除いた敵側の6人を全滅させることができれば、戦いは終了するということだ

 この戦いを制すれば、生き返られる。

 とはいえ、戦況は混迷を極めていると言ってもいい。

 遠距離攻撃ができるヒビクは、比較的ほかの連中から距離を取れるので、状況を俯瞰しやすかった。

 

 六本腕男子たちの加勢に入った2人。

 大きな瓦礫を抱えているのは、直接見るのは初めてだが、瓦礫を積んでバリケードを築いていた男子とみていいだろう。

 もう1人は大太刀を手にしたボブカットの女子。 

 彼女の様子を【望遠】でつぶさに観察していたフジサキは、こちらの世界に来ているはずの友人を探しているのではないか? と当て推量をしていたが。それが的中していたのかもしれない。

 それにしても、ボブカット女子は一度、六本腕男子を置いて逃げたはずなのに。面の皮が厚いというか。

 何を言っていたのかは聞き取れなかったが、六本腕男子は彼女たちの援助を受け入れることにしたらしい。

 状況を考えれば当然。多少のことは水に流すことにしたか。

 フジサキによる、シドウとの戦いの実況中継から、ボブカット女子の大太刀に、目に見える特殊効果はないとわかっていた。

 大きな太刀を自由に振り回せることが特殊効果なのではないかと、カムイは考察していた。それで合っているのだろう。あんなデカいもの、女子が軽々と振り回せるわけがない。

 男子であっても振り回せわけがない、デカいコンクリートの瓦礫を軽々と持ち上げている男子の方の能力は怪力か。

 いや、どうも違うようだ。

 瓦礫とウシオが鈍器として用いているブーメランとがぶつかりあっている。

 重たいはずの瓦礫と殴り合っているにしては、ウシオの方に衝撃がほとんど入っていないように見える。

 瓦礫を盾兼武器にしている男子の方が、はるかに軽いはずのブーメランでより強い衝撃を受けている様子だ。

 重たい物を軽くできる能力と言ったところか。

 瓦礫を投げようとしないことがその推察を裏付けている。対象に触れていないと効果が出ない能力なのだろう。

 ウシオの能力も似たようなものだ。相手に接触しないと基本的に効果が出ない。

 せっかく、能力の欠点を補える金属製の武器を持たせているのに、相手がコンクリートの瓦礫を用いているせいで意味がないようだ。

 

 ロープを振るう茶髪男子が近づいてきていた。

 いけない!

 ヒビクは叫ぶ。

【拡声器】を通して衝撃波のように変換された叫び声を浴びせる。

 茶髪男子の動きが鈍る。

 距離が空いていたので、威力が減退してしまっている。

 もう少し近づかせてから、攻撃すべきだったか。

 いや、不必要にリスクを高めることはない。敵を極力近づかせないに越したことはない。

 ヒビクは茶髪男子から距離を取る。

 しかし、こいつは本当になんなのか。

 隙あらばと言うように誰彼かまわず攻撃する。

 ヒビクたちにとって敵だが、六本腕男子たちにとっても敵。

 人数を考えれば、4人のヒビクたちに手を貸せばいいものを。

 本当に仲間を作る考えは一切持ち合わせていなかったらしい。

 現れた時からすでに、いくつも負傷を負っていた。一つ一つはそう大したものではないが、あざに切り傷に火傷。

 たった今、低威力になっていたとはいえ、ヒビクの攻撃も食らった。

 そうまでして、なぜ1人で戦おうとするか。何を考えているのか。シドウといい、スズシロという子といい、理解に苦しむ。

 茶髪男子の胸の内はともかく、どうせ攻撃するなら六本腕男子たちを攻撃してほしいものだ。

 

 ヒビクが思ったからではないだろうが、茶髪男子は今度は高身長男子を攻撃した。ロープの先のフックを投げつけた。

 カムイの方に気を取られていた様子の高身長男子はそれに気づき、飛んでくるフックへと向けて手を伸ばし、半透明の壁を出す。バケモノじみた反応速度でである。

 フックは茶髪男子へと跳ね返った、と思ったら消えた。フックだけではなく、繋がっているロープ自体が消えた。茶髪男子が消したのだ。こちらもなかなかどうして大した対応力だ。

 敵に関心していても仕方がない。

 ヒビクは拡声器でセミロング美少女を攻撃しようとした。

 だが気づかれた。

 叫んだ時には、すでに美少女の姿が消えていた。

「惜しいっ」

 ヒビクは悔しげに言ってから、すぐに瞬間移動した美少女の姿を探す。

 今はその気がないようだが、瞬間移動で一気に距離を詰められ、手にしたナイフで刺されたり切り付けられたら、たまったもんじゃない。

 カムイも言っていたが、美少女の位置はできる限り把握し続けていなければ。

「お兄ちゃーーーーーーん!!!」という絶叫が響き渡ったので、その位置は知れた。

 何かと悲鳴を上げて、お兄ちゃんお兄ちゃん叫ぶ美少女だが、今回は一際大きい音量だった。

 ヒビクが、カムイやウシオより怖かったとでも言うのだろうか?

 そんなことよりも茶髪男子が美少女の絶叫に気を取られている。

 攻撃して来るつもりの相手が近づいて来るのを待つのはダメでも、隙のできた相手ならこちらから近づいて行く。リスクを高めるのとリスクを冒すのはヒビクに言わせれば違う。

 先ほどよりも近い距離で、拡声器による衝撃波のような音波攻撃を浴びせる。

 今度は動きが鈍る程度では済まなかった。茶髪男子はよろけて、誰もいない方向にフックを飛ばした。

 ありがたいことにと言うべきか、その隙をカムイは見逃さなかった。

 茶髪男子に近づき、トゲを伸ばす。

 茶髪男子は足と腹をトゲに貫かれた。

 相手がふらついていたせいか、カムイも狙いを正確に付けられず、心臓は貫けなかったか。それでも重傷だ。

 トゲが地面に引っ込む。

 カムイは、もう一度トゲを地面から生やしてトドメを刺すつもりだ。

 地面に倒れた茶髪男子の体が引きずられるようにして動き出した。

 トゲは空気を突いた。 

 茶髪男子はすでにトゲの届かないところまで移動している。

 どうやら茶髪男子は瓦礫にフックが引っかかったのを利用したらしい。ロープを縮めることで己の体を引っ張って移動した。緊急事態とはいえ無茶なことをする。

 茶髪男子は瓦礫のところまで移動するとロープを消し、這いずって逃げ出そうする。

 カムイは、ロープの少年から視線を外した。

 重傷であるし、足を負傷させたから、優先することはないと判断したのだろう。


 ガキンという金属音と、バチバチという放電音が聞こえた。

 音のした方を見る。

 鈍器代わりのブーメランを振り抜いた体勢のウシオが立っている。

 ウシオの前でボブカット女子が膝をついている。その手には大太刀が握られていない。

 状況は掴めた。

 ブーメランと大太刀がぶつかり合い、大太刀が弾き飛ばされた。

 それだけではない。ウシオは自らの能力を金属のブーメランに上乗せしていたのだ。

【発電】

 体から電気を発生させる能力。

 漫画やアニメでよくあるように電撃を飛ばすみたいな使い方はできない。本来、相手に触れないと効果がない。

 しかし、金属のブーメランを入手し、それに電気を流す使い方ができるようになったことで、能力の有効範囲を伸ばせるようになった。

 絶縁体のコンクリートの瓦礫相手には意味がなかったが、大太刀相手には有効だった。

 ウシオは電流で痺れてすぐには動けないボブカット女子に追撃をしないでいる。

 何をやっているんだか。

【発電】の電圧では相手に致命的なダメージを与えるのは難しいらしい。なので、もう一度電流を流すか、それともブーメランで殴った方がいいのかと迷っているのだろう。それとも今になって身動きできない女の子を攻撃してもいいものかと考え出したのか。

 ヒビクはウシオから目を離し、カムイの方を見た。

【トゲトゲ】を、六本腕男子や高身長男子に向けて伸ばすカムイに迷いは一切見られない。

 ウシオの胸中を察そうとしたら、やはりカムイは冷酷非情な人間なのだと再確認できた。

 ヒビクはウシオへの方に視線を戻した

 ウシオの後ろに物を軽くする能力の男子が回り込んでいた。

 男子の手にはパートナーの女子の取り落とした大太刀が握られていた。

「危ない! 後ろ!」とフジサキが叫んだが間に合わなかった。

 自らの能力で大太刀を軽くしているのだろう、軽々と頭上に振り上げている。

 ウシオへ向かって振り下ろす。その際に能力を解除したと思われる。

 大太刀が本来の重さに戻ったことで斬撃が加速したのか。

 大太刀は、ウシオの頭から腹までを切り裂いた。

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