第46話 乱入者

 カンタは騒がしい方へと駆けつけた。

 物陰から様子を窺う。

 どうやら3対3の争いのようだ。

 

 一方の3人は見知った顔だった。

 ツバサとコトリの2人を襲撃する相談をしているところを見つけ、隠れて会話を盗み聞いた。実際に2人を襲うところも観戦した。

 だから名前と、ある程度能力を把握している。

 オチアイユメ、ハザマコウ、苗字は呼ばれていないので不明だがシンキロウ。

 ハセガワミリという背の低い女子がいない。

 どこかに隠れているのか、逸れてしまったのか。それとも脱落してしまったのか。最後だろうと勘が働いた。

 

 もう一方の3人は、初めて見る顔ぶれだ。

 角刈りの大柄な男子。体格がいいと自認しているカンタよりも、首、腕、胴、脚と全体的に太い。

 振り回している武器には見覚えがある。ツインテール女子のブーメランだ。彼女を脱落させた後に回収したのだろう。

 高い位置でサイドテールを結んだ小柄な女子。

 拡声器を口元に構えている。他人から奪ったものではなく、彼女自身の能力だろう。

 そして、髪がボサボサで小柄な男子ーーなんだ、あいつは!? いくらなんでも痩せすぎじゃないか!? ちゃんと飯食っているのか!?

 いや、今はそれよりもだ。

 もう1人、自分同様、隠れて戦況を窺っている者がいることにカンタは気づいた。

 額とうなじが丸出しと言えるほどに髪を短く切った背の高い女子。

 戦況を窺っているというよりは見守っていると言った方がいいかもしれない。

 特にガリガリの男子の動向を追っているように見える。

 おそらくガリガリの男子たちの仲間で、戦闘に不向きな能力の持ち主なのだろう。

 

 立て籠もっていた男子に、ボブカットの女子、それにカンタ自身を加えれば、現在残っている11人中10人を確認できたことになる。

 未確認なのは1人だけ。

 つまり、ツバサとコトリの2人のうち、どちらか1人は確実にこの灰色の地を去っている。

 確証はないが、2人とも残っていないだろう。あの2人はずっと一緒に行動し、そして一緒に倒された。

 爆音が聞こえてから連続してカウントが減ったのが、あの2人だったのではないか。

 ーー今はあの2人のことを考えている時ではない。

 今やるべきは現状分析だ。

 

 オチアイユメはナイフを手にして、キャーキャーキャーキャー、お兄ちゃんお兄ちゃん叫びながら戦場を駆け回っている。囮のつもりなのだろうか。

 時々、身の危険を感じて瞬間移動を使う。少しして戻ってきては、またナイフを手に走り回る。

 彼女の手にしているナイフやシンキロウが拳に嵌めているメリケンサックは、ここにはいないハセガワが出したものだろうか。

 2種以上の武器を出せる能力?

 ナイフもメリケンサックも特殊な効果を秘めていないか、使えないのは確かなようだ。

 ハザマコウは、もっぱらサイドテール女子の拡声器を取り上げるか、叩きおとそうと試みているようだ。

 サイドテール女子の拡声器は、音波とか衝撃波とかそういう類の攻撃を正面に放てるもののようである。

 しかし、ハザマの能力は攻撃を跳ね返せるもの。サイドテール女子もそれはすでに把握しているのだろう、うかつにハザマに向かっては攻撃をしない。

 身体能力的に見れば、ハザマが拡声器を奪取するのは簡単なはずだが、地面から生えるトゲや、ブーメランを振り回す角刈り男子の妨害もあって、簡単にサイドテール女子に近づけないでいる。

 シンキロウも敵3人のうち誰でもいいから攻撃するために接近したいようだが、やはり簡単なことではないらしい。

 時には投石を試みているのだが、六本の腕は物を投げるのには不向きなのか、狙いが定まっていない。

 味方に当たることを危惧して、やたらに投げまくることもできないようだ。

 投げると言えば、角刈りの男子はブーメランを投げないで鈍器として振り回しているだけだ。それこれ味方に当てないためと、戻ってきたブーメランを自分が喰らう羽目にならいないようにだろう。

 角刈り男子自身の能力は今のところ使っていないようだ。戦闘向けではないのか、使い所が限られているのか。

 一番恐れるべきは地面から生える馬鹿でかい黒いトゲだろう。

 シンキロウたちもあのトゲを恐れているようだ。

 その能力の持ち主であろうガリガリ男子は、ほかの者たちが奔走している中、ゆっくりとしか動いちゃいない。

 それにも関わらず、戦局を大きく動かしているのはガリガリの動きだった。

 黒いトゲが届く範囲までガリガリを入らせないように、シンキロウたちは動き回らなくてはいけない。動きが制限されている。

 さて。

 おおむね戦況は把握できた。

 肝心なのは自分がどう動くかだ。

 11人が残っている中、6人が争い合っている。

 共倒れになるか、シンキロウたちのうち誰か1人が残った上で、隠れている短髪女子を倒せば、残り5人となる。

 だが、そんな都合良くいくわけがない。

 どちらか一方のチームが誰も欠けることなく、もう一方のチームを全滅させることもありえる。

 そうなれば、独りの自分は窮地に追いやられることになるかもしれない。

 そうならないために、今この場で、2チームの争いに単身乱入する。

 どちらもにも肩入れしない。両チームを敵に回す。

 狙える者を狙う。隙のある者を攻撃する。

 まずは、一番隙だらけな者を狙う。


 短髪の女子の後ろに回り込み、そっと近づく。

 手にした縄を少しだけ伸ばす。

 伸ばした縄を短髪女子の首に巻きつける。

 そして、縄を縮める。

 急速に縮む縄は少女の首を締め上げるのを通り越して、頸椎をへし折りさえするはず。

 戦いに気を取られている短髪女子の背後を取り、縄を首にかけようと、腕を上げる。

 短髪女子がバッと振り返った。気づかれてしまった。

 短髪女子は甲高い悲鳴を上げた。

 そのまま首に縄を回そうとしたが、逃げられてしまった。

 這いつくばるように逃げる少女に向かって縄に付いた鉤を投げるが外す。

 短髪女子はガリガリ男子の方に向かって駆け出す。

 カンタは縄を振り回しつつ、短髪女子を追うように移動する。

 十分に振り回してから、先端の鉤を飛ばした。

 短髪女子の後頭部に向かって、鉤は飛んでいく。

 しかし、カンタが想像していたような、金属の鉤が頭蓋骨に直撃する鈍い音が響くことはなかった。

 実際になったのは、もっと鋭い音。

 金属同士がぶつかるのに近い音が鳴り響いた。

 地面から生えたでかいトゲが鉤を弾いていた。

 短髪女子はガリガリ男子に駆け寄り、「カムイさん、ありがとうございます」と裏返った声で礼を言った。

「隠れてて」

 ガリガリの男子はそっけないとも興味なさげとも取れるあっさりとした言い方で短髪女子に指示する。

「ごもっとも」

 短髪女子はそれに従い、バタバタと駆けていく。

 短髪女子は取り逃してしまったが、無理に追うことはしない。

 チャンスがあれば攻撃するが、誰か1人を執拗に付け狙うような真似ははしない。

 誰か個人をを集中的に狙うのは、そいつを生き返らせまいとしているようなもの。命を選ばないと決めたカンタがやっていいことではない。

 決めていた通り、ここから先は、隙を見つけた者から攻撃していくだけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る