第6話 見つけようとする者と見つけた者

 クオンジメイサは先に走り出したイワカベトウカになんとか追いつき、彼女とだけは行動を共にできていた。

 メイサとトウカは寄り添うようにして、恐々と進んでいた。

 爆発という広範囲にわたる攻撃を受けておいて密着しながら進むのは、適切な行動ではないことくらいわかっていた。

 それでも、怯えるトウカを突き放す真似もできない。メイサも、トウカとくっついていることで、わずかながらにも安心感を得ていた。

 不合理な行動でも、精神的な安定のためなら無駄ではないはず。

 トウカはメイサがいて安堵してくれているところもあるだろうが、メイサもトウカがいることで、しっかりしようと思えているところがある。1人だったら、もっと不安に苛まれていだろう。

 トウカは、みんなが無事でいてほしいと口にした。

 メイサは、大丈夫ですよと応えた。

 そう話した時点では空のカウントが減っていなかったから、まだ3人とも大丈夫なのは確かだった。

 だけど、行方は知れない。

 合流の方法を決めておくべきだった。

 いや、それより進む先をはっきりと決めておくべきだった。何かしらを目印にしつつ移動していればよかったのだ。

 チームが散り散りになっても、目指していたところへ向かえばいい。

 散り散りになってから気づいても手遅れだが。

 せめて今からでも、目指す先を決めてトウカと共有しないと。

 2人きりなのに、トウカとも逸れてしまうことを考えると身震いする。だからといって決めておかないわけにもいかない。

 もし2人が離れ離れになったとしても、どちらか、あるいは両方が運良く他の仲間と再会できることだってある。

 メイサとトウカの間で行き先を決めていれば、偶然再会した仲間も合わせて合流できる。

 具体的にどこを目指すか。

 逸れた仲間たちを見つけるためにも、できるだけみんなが行きそうな場所を当面の目的地にするべきだろう。

 それはどこか。


1.爆発があった場所。

2.この灰色の地で一番高い建物周辺。

3.自分たちが最初にいた場所。

 

 爆発地は、爆発の形跡が残っているだろうから、場所としてわかりやすい目印がある。

 だけど一度襲撃された場所に戻るのは、みんなためらいそうだ。

 メイサもできれば戻りたくない。メイサたちを襲った相手がいつまでもあそこにとどまっているとは思わないけど。爆音を聞きつけて様子を見に来た人たちが、周辺にまだいるかもしれない。

 この地で最も高い建物は、敵対者たちもとりあえず目指していてもおかしくない。

 味方に会えるかもしれないけど、敵に遭遇する危険性もある。

 だとしたら、自分たちが最初にいた場所、スタート地点に戻るのがもっとも無難な選択ではないか。

 自分たちのスタート地点は、ほかの人たちは知る由もないはず。自分がほかの20人のスタート地点を知らないように。

 自分たちしかその意味を知らない場所。ほかの人たちにとっては、なんの変哲もない場所。

 散り散りになった仲間たちがもっとも目指しそうな場所ではないか。

 どうだろう。

 他の3人は冷静に合流の可能性が高そうな場所を考えて行動してくれるのだろうか。

 闇雲に歩き回っているだけか、どこかに隠れて動いていないかもしれない。

 行動予測ができるほど3人のことを知らないが、短い時間から受けた印象から予想を立てると。

 ババタイキは、あてもなくその辺をうろうろしそう。仲間を探そうとは考えてくれるだろうけど、具体的にどうやってという方法まで思いついてくれるかどうか。

 活発そうなカシバリナも仲間のことは探してくれそう。なんとなくだけど、彼女はスタート地点よりも、この地で一番高い建物に向かいそうな気がする。こういう時はみんな目立つ建物をとりあえず目的地にするだろうと考えそうな。

 現世の町で逸れたならそれもありかもしれない。だけど、現世と違って、この世界には敵がうようよいるのだ。目立つ建物を目指すのは危険が伴う。だからメイサ自身はその選択肢を外した。

 ワタヌキケイは強気な態度を取っていたが、内心ではかなりビビっているように見えた。小心者で神経質そうなところもあったし、敵の影に怯えながら逸れた仲間を探すよりは、潜伏を選びそうな気もする。

 みんな、スタート地点に戻ることを第一に考えそうな気がしない。

 スタート地点に戻るのは、間違いなのだろうか?

 疑問が湧く。

 けど、印象で各自の取りそうな行動を予想して動くよりは、まず合理性が高い場所を目指すべきだ。

 メイサは決断する。自分たちが最初に気がついた場所に戻ることを。

 そのことをトウカに話そうとしたその時。

 メイサの体に激痛が走った。

「え?」

 驚きの声のような、呻き声のようなものが口から漏れる。

 痛みの中、話しかけようとしたトウカの体を大きな黒い円錐状のものが貫通しているのが見えた。

 恐怖に開かれたトウカの目には涙が浮かんでいる。

 トウカは悲鳴をあげて、黒いトゲのようなものなど刺さっていなかったかのように駆け出した。

 実際、彼女の能力【すり抜け】が発動して黒いトゲは彼女の身体をすり抜けていたのだろう。

 激痛で動けないメイサを置いて、トウカは走り去っていく。

 遠ざかるトウカからメイサは自分の体に視線を移す。

 トウカのいた場所に地面から生えたままの黒いトゲと同じものが二本、メイサの体を貫いている。

 激痛をもたらしているものの正体はこれだ。

 メイサは首を巡らせる。

 いた。

 痩せこけた背の低い男の子が建物の陰から姿を現していた。

 驚いたような顔で、逃げていくトウカの方を見ていた。

 この人だ。

 メイサは理解した。

 この人がやったんだ。この人がこんな痛い思いを私にさせたんだ。

 胸の内に激しい怒りと憎しみが湧き上がってくる。

 メイサは激痛の中で、あれこれと思考を巡らせることができたわけではない。

 だけど、自分がもう助からない、この戦いから脱落することくらいは本能的に理解していた。これ以上あがいたところでどうにかなるわけでもないことも。

 それでも、それだからこそ、メイサは痩せこけた少年に一矢報いようとした。言い換えれば、道連れにしようとした。

 メイサの両眼に赤い光が灯った。

 痩せこけた少年はそれに気づいたようだった。

 メイサを串刺しにしていたトゲが地面へと引っ込む。

 メイサの目から赤い光を放つ【熱線】が放たれた。痩せこけた少年に向かって真っ直ぐに。

 少年の前にトゲが生え出す。少年自身の身長よりも長いトゲが四本、不揃いの角度で。

 直進する熱線は、地面から生えた黒いトゲに阻まれ、痩せこけた少年に届くことはなかった。

 突き刺さっていたトゲが支えになっていたにすぎないメイサの体は、それが引き抜かれたことで、力なく膝から崩折れていく。

「ちくしょう」

 地面に膝をついたメイサは彼女にとって精一杯の罵倒の言葉を吐き捨てた。育ちのいいメイサには、罵詈雑言のバリエーション自体が少ない。とっさに絞り出せた暴言など、せいぜいそれが限度だった。

 メイサの体が光となって消えていく。

 

 メイサが気づかないうちに23になっていたカウントが22へと減った。

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