第24話『墓穴を掘る』

『手となり足となり』

妻が離婚を切り出した。既に彼女が署名、捺印を済ませた離婚届が机に広げられている。これからの人生をこの人の足となり杖となって生きたいの、と膝にのせた毛むくじゃらな脚を愛おしそうに撫でる。残念だが妻の意志は固いようだ。だからこれに署名をお願い、と床に置いていた僕の右腕を返してくれる。



『墓穴を掘る』

バラバラにするのは骨が折れそうで気が重い。食べる手もあるが料理の腕はなく今は食欲もない。無難に埋めることにして場所に悩む。思案の末、名案が浮かんだ。運ぶ手間もなく上手く放り込み穴を塞げば何も残らない筈だ。間違っている気もするが溢れる笑いが思考の邪魔をする。冷たい妻の背に穴を掘る。



『波に漂う』

海で出会った女の胸に耳を当てると波音がした。隣で眠ると必ず海の夢を見る。堤防を越える波、浅瀬の国道、波間に浮かぶ滑り台から眺める夕陽。女が海を呼ぶのだろう。ベッドが漂い出さないのが不思議なくらいだ。寝返りを打つ君の作るシーツの波が僕の手前でとまる。このまま僕を呑み込めば良いのに。



『道しるべ』

黒枠に矢印と◯◯家葬儀式場と書かれた貼り紙をした電柱に梯子が立て掛けてあった。人の指を模した矢印は確かに梯子を指差していた。だから道は間違えていない筈だ。もう上り出して随分と経つ。青かった空は藍色に変わり星が瞬き始めた。もしかするとあの人のところまで連れていってくれるのだろうか。



『それって、今のことですか?』

首筋に臙脂色のキノコが生えた。調べたが種類は分からない。色が色だし、なんといっても僕から生えるのだ、毒キノコの可能性も大きく食べる気にはならない。長髪を良いことに普段は髪を下ろし隠している。知るのは妻だけで、いつか最高に幸せか不幸せな時にでも一緒に食べてみましょう、と真顔でいう。



おまけ

『1玉98円の妻と』

生鮮特売コーナーで1玉98円の妻を手に取る。これに2房398円の妻と1塊498円(虫食い穴あり)の妻と1袋長短4本入り198円(20円の値引きシールつき)の妻を買えば大丈夫だろうか。つなぎは?初めてで勝手が分からない。花屋で妻の苗1株120円も見かけたが一から育てる自信などない。結局何も買えずに店を出た。

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