第15話『噛む女』

『ペンネの穴の夜の星の海』

帰るとペンネと壁掛け時計が伸びていた。茹で時間を計ろうと外した時計が鍋に落ち、茹で過ぎたらしい。力なく伸びた時計の針に「朝が来ないかも」と君が泣く。塩水と時を吸って伸びたペンネの穴に耳を当てると波音が聞こえた。「夜の星の未来の話をしようか、海まで遠回りで」君を誘い夜の穴をくぐる。



『箱船』

「当選おめでとうございます。いざ冒険の船旅へ」ぼろアパートの錆びてひしゃげた集合ポストから取り出した葉書を一瞥する。今回が最終抽選でこれが乗船券も兼ねるらしいが構わず握り潰すと独りの部屋へ帰る。箱船という性質上ペアチケットなのは理解すべきなのだろう。窓の外、止まない雨を見つめる。



『過半魚人』

僕は外見が魚寄りの過半魚人だ。手足は貧弱で二足歩行は不得手だが会社まで泳げる川もなく電車通勤している。タチウオ顔でヌメヌメテロテロした見た目は世間一般的に宜しくないようで友達はいない。経理のYさん曰く僕は少し生臭いらしい。Yさんはとても良い匂いがする。心が人寄りで時どき苦しくなる。



『噛む女』

脇腹に噛みついた女が離れない。仕事には連れて行けないから首から下を切り落としシャツを着た。目立つが仕事に支障はない。痛みも我慢出来なくはないし、寧ろ今では好ましい。シャワーを浴びると女が苦しむ。口が塞がり鼻呼吸のみは辛い筈だ。女も生きてるんだ。湯船に浸かるのは諦め女の髪を乾かす。



『妻の手料理』

妻の手料理を味わう。本当に妻の料理は最高なんだ。おねだりする愛犬にも少し分けてやる。どうだい、ママの味は?尻尾を振りながら薄い肉を平らげ骨をしゃぶる。明日は何にしよう。僕の料理も板についてきた。尻も良いし、ふっくらとした頬肉も捨てがたい。大丈夫、まだ死なせない。料理は鮮度だろう?



おまけ

『君を見ていたい』

上履きに履き替えようとして靴の中の目玉と目が合った。もう片方の靴には「ずっと君を見ていたい」と手紙が入っている。心当たりはないし、慌てん坊なのか名前もない。返してあげたいけど、どうしよう。仕方がないから職員室前の落とし物箱に入れた。目玉がたくさん転がっている。流行りなんだろうね。

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