第6話『亀障害』
『永遠の嘘』
永遠にばれない嘘をつくためにも先ずは永遠を手に入れようと百貨店を訪ねたが何処を探しても見つからない。店員に聞いても此処では扱っていない、と言う。では何処で、と尋ねても哀しげに僕を見て首を振る。永遠がないのなら永遠の嘘なんてつけないじゃないか。ああ、そうか。永遠こそが嘘だったのか。
『助けたウサギ』
玄関に「あの時、助けて頂いたウサギです」とバニーガールが立っていた。ドキドキしつつ家に上げると次々に酒やご馳走が届く。夜も更けた頃「いいと言うまで開けないで」と隣の部屋に入っていく。暫く待つが我慢出来ずに覗くと開いた窓の下に請求書の束があった。そういえばウサギを助けた覚えがない。
『採寸』
採寸する。三体まで製造可能ですが誰に送りますか、と聞くから両親と君に、と言っておいた。二体でいいのか、と言うから頷いた。行き場のない俺を増やしても仕方がない。戦場へは代わりにコイツらを遣れないのか、俺の言葉に技師は素っ気ない。性能が違いますからね、戦うのはあなたです。だ、そうだ。
『世界の終わりを漂う炬燵たち』
炬燵に潜り込み寝転ぶと月が見えた。そうだ、夕べ屋根も何もかも吹き飛んだんだった。なのに籠の蜜柑と回覧板がのる炬燵は残していくなんて神様も気が利く。壁も床も消えて、ただ炬燵が幾つも宇宙を漂うのが見える。そっと回覧板を隣の炬燵へ。遠赤外線ヒーターが僕のお腹のあった辺りを仄かに暖める。
『亀障害』
大規模な町のバージョンアップとメンテナンスのせいか、毎朝訪れる神社が縁結びの神様になっていた。狛犬の不在はトリミング中らしい。賽銭を投げ結びたい縁について思案した後、いつも通り靴下の親指と踵の平安を願い本堂脇の池で亀を見る。回線の不具合か解像度が低い。亀障害が発生しているようだ。
おまけ
『喪失』
名前を失くしたことに気がついて慌てて交番に駆け込んだ。そこでふと悩む。これは落とし物なのか、それとも名前、つまり僕を失くしたのだから捜索願の方が正しいのか。とりあえず警官に、失くしものですと言ってみる。すると彼は椅子を勧め遺失物届を取りこう言う。先ずはこちらに名前をお書き下さい。
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