第4話夢が見れる機械
『避難訓練』
非常階段という性質上、いかに人を安全な場所に避難させるかを最優先するのは分かるが、どこへ向かって避難するのかも出来れば教えて欲しいものだ。「非常時に贅沢を言うな」確かに一理あるが降りてみるまで分からない、というのもどうだろう。特にこんな訓練の日は。この階段、いつまで下るのだろう。
『そむく』
台所に立つ妻の背中を眺めながら、今日は人の後ろ姿しか見ていないと気づく。通勤電車や会社、商談相手に立ち寄った本屋でも誰もが私に背を向けていた。妻を呼ぼうとしてためらう。振り返った妻がやっぱり後ろ姿だったら恐ろしい。いや、それよりも背中を向けていたのが私の方だと知るのはもっと怖い。
『児童公園の死』
ぐるりと周囲に張り巡らされた鯨幕を見て公園が亡くなったことを知った。そういえば近頃やけにカラスが群れていた。白黒の幕の合わせ目から中を覗くと公園のシンボルだったゾウネズミの滑り台が骨になっている。子供たちや幼い頃の僕もお世話になった公園なのだ。お通夜ぐらいは出させて貰おうと思う。
『夢が見れる機械』
夢が見れる機械を買うと簡易ベッドと羽毛布団が届いた。半信半疑で眠り目覚めると宇宙にいた。後は寝ても覚めても宇宙を漂い夢うつつだ。実は睡眠中に世界が滅び、偶然この最新鋭の機械が脱出艇の役割を果たしたのだろうか。寒気がする。この宇宙の冷たさは本物だ。宇宙船の外装が羽毛布団で良かった。
『幽霊の街』
国花や県花、市花があるように私の町にも町花が二つある。選ばれた幽霊蘭と無葉蘭はどちらも寄生に近い、いわゆる腐生植物で光合成を行わない。幽霊は良いとして無葉(無用)とか腐生とか、間違いとは言わないがネガティブ過ぎる気もする。まあ、幽霊なんて自虐的でパラドキシカルな生き物ではあるけど。
おまけ
『桜並木の通り』
普段は使わないが桜の時期だけは回り道していく通りがある。小さな川沿いの細い桜の並木道だが、なかなか風情がある。日暮れにはぼんぼりが灯り夜桜を楽しむ黒い影がそぞろ歩く。これだけ趣のある通りなら普段も利用すればと桜を見上げ思うのだが、この季節にしかここへ辿り着けないのだから仕方ない。
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