第3話影猫
『何を支えに死んでいけば』
ずっと呪ってやる、と誓って難しい試験を受けてまで幽霊になったのに研修期間も終わらない内にあっさりアイツが逝った。挨拶もなしにさっさとあの世に行くものだから、私は一人、あの世とこの世の間に取り残されてしまった。葬儀に出向き悔しさの余り泣いた。その場の誰よりも奴の死を悲しんで泣いた。
『最初の宇宙飛行士』
応募した覚えのない宇宙飛行士に選ばれた。用意されていた宇宙服は窮屈だが問題ないらしい。試着後、他の候補者たちと面会した。厳しい訓練に耐える彼らを差し置いて申し訳ないが、彼らは屈託なく笑い僕を撫で回す。そうだ、邪魔な首輪を外して貰おう。あと宇宙服にも尻尾が欲しい。少し痛かったんだ。
『影猫』
影猫と暮らしている。僕が寂しがることを知っていたのだろう、飼っていた猫が逝った時、影を置いていってくれた。壁や天井を自由に歩き回り、以前と変わらない気儘な暮らしを楽しんでくれているようだ。触れることは出来ないが、夜は僕の胸に顎をのせて眠る。もともと黒猫だったから余り違和感はない。
『天使であふれる街』
子供の頃、街に住み着いた天使はずっと一人ぼっちだった。今日、天使を殺害した。無防備なその背中にナイフを突き立てた。振り向いた彼は無言のまま哀しげに私を見ると、ぼろぼろと土塊と化した。やがて泥の欠片は光に包まれ、その一つ一つが天使へと姿を変えた。近頃、街に天使が増えた理由を知った。
『銀色の雨と円盤と赤い旗』
雨粒と一緒に空飛ぶ円盤が校庭に降ってきた。雨宿りをしていた部活動中の僕らは遠巻きに銀色の雨と銀色の円盤を見つめる。やがて宇宙人が降りてきて月面みたいに旗を立てると飛び去った。雨足が強まりグランドには大きな水溜まり。雨に濡れる旗は赤一色。それを見た僕らはグランドが使えないと悟った。
おまけ
『いつか空を飛ぶ日』
ニワトリが靴を履くようになった。もう飛ぶのは諦め、地に足をつけて生きていくことを選んだのかと思ったら違った。昨日、話を聞いた。別の方法を試してみることにしたのだ、と。ヒトを参考に進化の道を探るつもりらしい。それで靴を履いてみるというのも遠回りな気もするが、現にアイツら喋ったしな。
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