『シアワセノカタチ』続編

鈴木 優

第1話

  『コーヒーはまだぬるい』(続編)

          

               鈴木 優

 

 冬の光は優しく、けれど容赦なく時間を刻んでいく。

 午後三時、店の時計は確かに進んでいるのに、彼の心の中では何も変わらないようだった。

 

 窓際の席、いつものカップ、変わらないメニュー。

 けれど、ただ一つ違ったのは、彼の向かい側に誰も座っていない事だった。


 三か月前、同じ席で彼女は

 「少し苦いね」

 と言って笑った。

 あのとき彼は、何かを答えようとしてやめた。

 言葉はたしかにそこにあったのに、声にする勇気が出なかった。


 その日を境に、彼女は連絡を絶った。

 メッセージは既読にはならず、電話もつながらない。

 理由はなかった。

 むしろ理由を語る余裕すら、彼らの関係にはなかったのかもしれない。


 彼は今日も、その席にいた。何かを待っているわけでもなく、ただ「もしも」を繰り返していた。

 

 過去が変わることはないと知っていても、どこかで一行のメッセージが返ってくることを願ってしまう。


 そのとき、ドアのベルが静かに鳴った。

 彼が視線を上げると、そこに彼女がいた。

 スカーフの色は違っていたが、髪の揺れ方は以前と変わらなかった。


「久しぶり」彼女が言う。

「うん…久しぶり」彼は返す。

 声が少し震えていた。


 彼女はゆっくりと椅子に腰を下ろした。

 

 カップの中身はぬるくなっていたが、二人の間にはあたたかい何かが流れ始めていた。


「この店、やっぱり落ち着くね」

 彼は、小さくうなずいた。


 今度こそ、少しの勇気を持って気持ちを伝えようと。

 

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『シアワセノカタチ』続編 鈴木 優 @Katsumi1209

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