第13話 第二章 運命の双生児(4)

 これには呆れたような視線が集中していた。


「お前一体どういう腕力してるんだ?」


 口には出せなかったものの、至上神である生児の兄、セインノーアですらここまで非常識ではないと裏に秘めている。


 これが本当についこの間まで医療棟に閉じ込められていた重病人?


 おまけにこの外見で軽く剣を壊してしまうなんて。


「忘れてるようだけど、俺、これても神なんだよ? この程度は当たり前だって。そもそも俺は普段から腕力とか脚力は自主的に自己制御してるし」


「悪質な冗談」


「これ見て、まだそう思える?」


 残骸と化した剣を指さしてそういわれ、ノールはかぶりを振るしかなかった。


 どうやらリュースに常識というものを求めるほうが間違っているらしい。


 存在そのものが奇跡だ、彼は。


 その後、リュースが望むままに彼に合う剣を探したのだが、遂に満足できる剣は出て来なかった。


「しょうがないなあ。今回はこれで妥協するか。これは自分で用意するしかないみたいだな。俺が使うたびに壊していたら、幾ら剣が沢山あっても追いつかないだろうし」


 こういってリュースが手にしたのは、界皇専用の剣だった。


 所謂聖剣だ。


 別に皇位には関わってこないが、本来、これを使えるのは界皇だけで、リュースにはまだその種利はないのだが、彼はあっさりとそれを今回の練習用と定めたようだった。


 言葉を信じるなら壊れる運命にあるらしいが。


「リュース。言いたくないんだが、それは界皇の聖剣だ。お前なら使っても文句は言われないとは思うが、さすがに壊すのは」


「だってこれが一番頑丈なんだから、しかたないじゃないか。これなら少しの間は持つだろうけど他のはそうもいかないから」


 この非常識な腕力をどうにかしろと叫びたかったが、ノールはがっくり脱力しただけたった。


 とことんリュースには弱いのである。


「壊すと不味いんだったら、壊れたら元に戻すよ。面倒だけど」


 言いつつリュースの瞳が先程壊し、残骸と化した剣に向けられた。


 蒼い瞳が一瞬だけ金に染まる。

 

 鮮やかな光を放つその瞳に、ノールは思わず魅入っていた。


 確かにただの残骸と化したはずの剣は、真新しい状態に戻ってそこにある。

 

 だれも唖然と固まっていた。


 無道作にそんなことをしてのけたリュースに驚いて。


 セインノーアも不思議な力を使うが、リュースとは力の質が違った。


 ましてや威力も効果も段違い。


 至上神セインノーアは壊すことはよくあるが、なにかを元通りに復活させることなど一度もやっていない。


 やっていないだけでできるのか、それともできないことなのかは、だれも知らないのだが。


 だが、力が強すぎてなにか大事な物を壊したときも、セインノーアはこんな真似はしなかった。

 

 だから、だれもが驚いて声もなかったのである。


「なんでそんなに驚いてるんだ、ノール? おまえは至上神とも親しいんだし、この程度のこと見慣れてるだろ?」


 未だに家族のことは名前で呼ばないリュースに、ちょっと苦い表情になったが、ノールはかぶりを振った。


「セインはこんな裏似をしたことは一度もない。性格的にやらないだけでできるのか。それともできないのかは俺も知らないけどな。これって復元っていうのか?」


「どっちかっていうと創造。復元もできるけど復元だと壊れる前の状態に戻るだけで、こんなふうに一度も使用されていない状態にはならないからさ。わかるだろ? 復元っていうのは元に戻すって意味だから」


「ああ。なるはどな」


 確かにそれを通り越して新品の状態に戻したのなら、それはもう創造の領域だろう。


 ただ本当の創造というのは無から有を創り出すことだが。


「ちょっと怖いが興味があるから訊ねるが」


「なに?」


「お前もしかして本当の意味での創造ができるのか? つまりなにもないところからなにかを創り出すことが」


「できたらなにか怖いわけか、それって?」


 どこかズレた反応にノールは困ったような顔になる。


 リュースも困っているのか、両腕を組んで悩んているようだった。


「まあ人間の感覚でいえば、神っていうのはそういうものなんだけど。並外れたカは、やっぱりちょっとは怖いものだから。だからって俺はおまえを恐れないけどな」


 一言だけ付け足したノールに、リュースも微笑み返した。


「じゃあ人助けでしか使わないから安心しろよ」


 その一言ですべての者が答えを知った。


 リュースにはできるのだ。


 無から有を創り出すことが。


 人々の脳裏にリュースとセインのどちらの力が強いのかと、そんな素朴な疑問が浮かぶ。


 そのあいだにもリュースはノールから、剣術の基本的なことを教わっていた。


 別にまだなにがあったわけではない。


 だが、世界はまた不安定でリュースに余裕が出てきたら、外に赴くこともあるだろう。


 神が存在するということは、闇もまた存在するということだ。


 人々は想像したこともないみたいだが。


 いずれその闇と対し戦う日が訪れる。


 それまでに戦う術を身につけておきたかった。


 刀を使う闘い方だけがすべてではない。


 

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