人生って楽しい

しづき

第1話

「みくあバイバイ〜」

「うん!また明日ねー!」


学校帰り友達とカラオケで3時間程歌った後、別れを告げ電車に乗って家に帰る。

電車の中で大好きなビビアナの新曲を聴いて田舎町の景色を眺めながら考え事をしている。


高校3年生18歳のみくあ。


高校卒業後の進路について悩んでいる。

今は、ダンスを習っていて将来はビビアナのバックダンサーを目指している為、ダンス専門の学校に行きたいと親に相談をした所大学に行きなさいと頑固拒否されてしまった。

しかし、私は勉強をする気が更々ない。

 

小学1年生の頃、ダンス番組で有名なダンサーが大きなステージで堂々とキレのあるダンスをしているのに圧倒され近くのダンススクールに通い始めた。

そこから、四六時中ダンスをしている。

なので、勉強など一切してこなかったしダンス以外の事は何も興味がない。

どうすれば親を説得させることができるのだろう。

高校卒業まで半年を切った。周りのみんなは進路が決まっていて、大学受験の子は受験対策に取り掛かっている。私だけ置いていかれている気分。


「ただいま」

「おかえり」

「夕食置いといてあるから温めて食べてね」

「ありがとう」


いつもはみんなで食卓を囲って夜ご飯を食べるが今日は20時からダンスのレッスンがある為、私だけ先に食事を済ませてレッスンに向かう。


1時間のレッスンを終えて帰宅。今日のレッスンはいつも以上にハードで脚が重く感じる。直ぐに横になりたい気持ちを抑え風呂場に直行する。


「みくあ少し話がある」


お風呂から出た後、私はリビングに呼び出され父と母が椅子に座っていた。

空気が淀んでいる。私は何かやらかしたのかと焦りつつも平静装って両親の前に腰を下ろす。


「専門学校に行きなさい。」

「え??」


父の急な発言に動揺を隠せない。


「ダンスしたいんでしょ?」


母も納得した様子。


「いいの!?前まであんなに反対してたのに」


「この前のダンステストの評価、すごい良くてみくあなら有名になれると思ったんだ。だからもっとダンスを頑張りなさい。お父さんはいつでも応援してるからな」


「お母さんも、好きなことに全力で取り組んでるみくあの姿を見ていたら応援したくなっちゃった!」


「お父さん、お母さん。ありがとう、私これからも頑張るね!専門学校に通ったら、今以上に努力して有名になる!」


今までの努力が報われた瞬間だった。


両親に恩を返せるようたくさん練習をして周りの何倍もスキルアップしてみせる。



その日から私は、友達と放課後遊びに行くのをやめ学校が終わった後は、家に帰ってダンスレッスンまでの短い間ですら、無我夢中になってダンスの自主練をしていた。とにかく、上手くなりたいという気持ちが強かった。



無事に高校を卒業して専門学校に入学をした。


校則が厳しい高校だったので、卒業式が終わったその日に髪を金色に染めてピアスを両耳に開けた。少し大人になった気分で嬉しかったのでそのまま軽く買い物をしてから帰宅した。


「おお!可愛いじゃないか!やっぱり、お母さんに似てみくあは別嬪さんだな」

「やめてよお父さん」


相変わらず両親は仲良しだ。喧嘩をしている姿を一度も見た事がない。

お父さんは、いつも明るくて人を笑わせてくれる面白い人だ。

お母さんは、穏やかで笑顔が絶えない家族思いの優しい人。

私も結婚したらこんな平和な家庭を目指したいとつくづく思う。


「卒業おめでとう。」


いちごの乗った大きなタルトケーキが出された。そこには蝋燭とチョコレートプレートに卒業おめでとうと書かれている。私は感謝の意を込めて蝋燭の火を一息で吹き消す。煙の匂いが漂い、祝福のモードに心温まる。


来月からは、都内の専門学校に通う為上京をしてしまう。この家で家族と暮らせるのも後3週間ほど。少し寂しくはなるが、私の夢を応援してくれる両親の為にも強くならないと。




春風にのって桜の花びらが舞う4月頭、私は専門学校に入学をした。本日は初登校日。

緊張と楽しみが入り混じった感情の中、校舎に入る。私の通う専門学校は、芸能学校で芸能科、ボーカル科そしてダンス科の3種類に分けられている。

私はその、ダンス科に入学した。

芸能学校だけあって皆みてくれがよく小顔でスタイルが良い。髪も赤や金などさまざまなカラーをしていて目がチカチカする。

今日は、レクリエーションのみでクラスの前で1人ずつ自己紹介をする。

この中でも一際目立っている子がいた。


「芸能科のりりあです。モデルをしてます。身長は170cmあります。よろしくお願いします。」


背が高く、肌は陶器のような白肌ですごく綺麗で目立つ子だ。あんな子が、芸能界にはたくさんいるのか。そう感心していると。近くの席からヒソヒソと声が聞こえた。


「何あいつの自己紹介、ちょっと可愛いからって調子に乗りやがって。むかつく。」


「それな!なんか鼻につくんだよねw」


「まぁ、顔はイマイチじゃね?」


これは嫌な予感だ。私は自己紹介を済ませていたが何か嫌味を言われてなかったか少し心配になった。


学校帰り渋谷のカフェで少し寄り道しようと駅を降りて少し進んだ脇道に入るとすごい物音がした。


「お前なんだよあの自己紹介!」


「ちょっと可愛いからって調子に乗りやがって!」


「痛い!!ごめんなさい。もうあんな事言いません、だから許してください。」


「うるさい!お前、明後日オーディションがあるらしいじゃん?オーディション出られないように顔に傷つけてやる!!」


「ぎゃああああ」


嫌なものを見てしまった。これは見て見ぬ振りをしておいた方が今後の学校生活には影響を受けないだろう。そう思って私は先に進もうとしたが、なぜか反射的にいじめっ子の方に体が動いてしまいそいつの手首を掴んだ。



4年前...

「今回の発表会のセンターはみくあにします!」


「ありがとうございます!」


毎年スクールでは1年に1回発表会がありその発表会でセンターになれた子は上のクラスに進級できるという暗黙の了解があった。私は小学6年生になった発表会の練習中にクラスのオーディションでその座を勝ち取った。

嬉しさのあまり泣きながら喜んでその出来事を家族に伝えたところ、両親も大喜びして親戚もダンスの発表会に呼んでもらえることになった。


次の日やる気いっぱいで、スクールに行くといつもの仲良し3人組が先にスタジオにいた。

私はいつものように挨拶をしたが無視をされた。その時は聞こえていなかっただけなのかなとあまり気にしていなかったが、その後に大事件が起きた。

発表会の練習中立ち位置を決めながらレッスンをしていると後ろから脚が何度も当たる。私の不注意で当たってしまっていると思った為、脚が当たるたびにごめんねと謝っていた。しかし、ラスト1回フルアウトで踊ることになり曲が流れ、全力で踊っていたらまた脚がぶつかってしまい私はそのまま床に倒れあまりの痛さに動けなくなってしまった。


「どうしたの!?」


先生が急いで私の方に駆け寄って私の足元を見た。


「すごい脚が腫れてる。今直ぐ病院に行きましょう。」


私は、お母さんの車の後部座席に乗せられてそのまま病院に向かった。

診断の結果複雑骨折と告げられた。早くても3ヶ月はかかると言われ私は絶望の淵に立たされた。発表会は2ヶ月後、どう頑張っても発表会には間に合わない。

私は帰りの車で涙を堪えきれずに赤ちゃんのように大声で喚き散らかした。うるさかったとは思うが母も理解してくれていたので何も言わずに黙って運転をしてくれた。今思えば申し訳なかったなと反省している。



3ヶ月後、足の痛みも引いて完全に動ける状態になったので久しぶりにダンスのレッスンに向かった。いつもの仲良し3人組が先にスタジオにいると思ったが2人しかいなかった。私はおはようと挨拶をした。今度は笑顔で返してくれた。


「みくあちゃんおはよう!脚もう大丈夫なの?」


「うん!だいぶ腫れは引いたからもうダンスできるよ。」


「よかったー!!無事に治って!また一緒にダンスできるね!」


「そうだね!」


私は幸せな気持ちになったこの時までは。


「そういえば、なんで2人しかいないの?今日はさきちゃんお休み?」


気になっていた事を聞いてみた。


「あー!さきちゃんは上のクラスに進級したよ!」


あ、そっか。私の代打でさきちゃんが選ばれてセンターで踊ることになったから上のクラスに行ったのか。少し靄のかかった気持ちで悔しい。でも、私の不注意が招いた『事故』だからこれを機に、怪我にも用心してダンスをしようと決意した。


「そういえば!そうだったね!また一緒に踊りたいな!」


涙を堪えて笑顔で返事を返すことしかできなかった。その日は沈んだ気持ちでレッスンを受けた。


レッスンが終わって上のクラスの子が廊下で待機している時、私はトイレに向かった。トイレの先ではレッスン前に挨拶をした2人と上のクラスに進級したさきちゃんがいた。さきちゃんに声をかけようと思ったその瞬間とんでもない事を口にする。


「みくあが上手い事骨折してくたおかげで上のクラスに進級できたわーwwまじラッキー」


「そうだねw私たちの作戦大成功だね!」


「ダンスが上手いからって先生に気に入られてほんとにうざかったけどあの悔しそうな顔見て清々した」


私は驚きのあまりその場に立ち竦んでしまった。

いつも仲良くしてくれていた3人が自分に嫌悪感を抱いていたなんて想像もしていなかったのだ。


3人がこちらに向かってきたので私は咄嗟に走って逃げてしまった。

あの日は、意図的にされた事で、私の不注意ではない。挨拶を無視されていた事にも納得がいく。あれは『事故』ではなく『事件』だったのだ。そう確信した瞬間だった。それっきり3人とは会話を交わすことは無くなった。




もう4年以上も前の話だ。私は、今この状況で大昔の自分と目の前の状況とを照らし合わせている。助けるつもりはなかったが、自分がすごく辛い思いをしたので情が入ってしまい、つい手を出してしまった。こんな修羅場で口を出したら今後の学校生活お先真っ暗だ。わかっていても掴んだ手首を離せない。


「あんた誰?その手邪魔なんだけど」


「自己紹介ごときでそんな怒って人に手を出すなんてお前の人間性どうかしてる!」


「はあ!?もしかして同じ学校?地味な顔だね鏡一回見てきたらどう??」


この一言で私の心はヒートアップ。もう止まらない。


「顔に傷をつけてオーディションに出さないようにするなんて!この子の人生がかかってるんだよ!?やれるもんならやってみろ!今動画撮ってSNSに載せるよ?そしたらお前の人生終わりだなww」


「なんなのこいつ!もう行こう!」


そそくさと虐めていた3人は逃げてしまい私と虐められていた子だけがその場に残った。

虐められていた子が何か言いたげにこちらを向いている。


「ありがとう」

「大丈夫?怪我はない?」

「うん、おかげさまで。」

「よかった。」

「私りりあ。同じクラスの子だよね?もしよかったらこれからも仲良くしてほしいな。」


青空のように澄んだ瞳。すごく綺麗。これだけの美貌だ、今までも虐められたことは何度もあったのだろう。勝手な憶測だが想像すると可哀想に思えてくる。私はこの子を守ってあげたいと思って学校生活を共にする事を決めた。先ほどの3人に何か言われてもこの子がいると思うと少し安心できる。


「私みくあ。よろしくね!」

「みくあちゃん!可愛い名前だね。」


ありがとうと一言返した後、1人でカフェに行こうと思ったが、りりあちゃんも予定がないというので一緒にカフェに行って親睦会をすることにした。



カフェではたくさんの会話をしたのであっという間に2時間が経っていた。りりあちゃんはモデルを目指して隣の街から1人上京をしたとの事。あの3人は今日の学校で初めて合ったがこんなにも直ぐに目をつけられるのは初めてだったらしく内心驚いていたそう。


「明後日のオーディション頑張ってね!応援してるよ!」

「ありがとう!頑張るね!」


別れを告げ駅に向かった。

家に帰ってつい「ただいま」と、いつもの口癖で言ってしまったが一人暮らしを始めたので家には誰もいない。一人寂しく就寝の支度をする。

明日から本格的に授業が始まる。

しっかり休んでエネルギーチャージをしよう。

前向きな気持ちで布団に入った。






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