王国に裏切られた少年、最凶ダンジョンを築いて貴族たちを血の海に沈める
えるとん
血の王の目覚め
プロローグ
真夜中の廃教会。崩れかけたステンドグラスの隙間から月光が差し込む。
剥がれ落ちた聖像の台座に、若い男が一人、黒いローブを羽織って膝をついていた。
アルス・レイヴァン――かつて王都の学術院で英知を学び、民を導くはずだった男だ。
「……これで、本当に……?」
小さく震える声は、誰にも届かない。
床に刻まれた巨大な魔法陣が、どくどくと脈打つように赤黒く輝き始める。
供物として捧げられたのは、彼自身の血と、亡き家族の形見だった。
「母上……父上……こんな形で、許してくれるはずもないな……」
王国貴族の陰謀で、一夜にして家は焼かれ、家族は処刑された。
何も守れなかった無力さに、何度も自ら命を絶とうとした。
だが、死ぬことすら赦されないなら――せめて自ら怪物となり、人間という人間を滅ぼし尽くしてやる。
「契約は完了した」
低く、不気味な声が、教会の奥から響く。
赤黒い光が床を這い、アルスの全身を呑み込んだ。
視界が暗転する。
目を開けたとき、そこは無限の石造りの回廊だった。
黒曜石の壁面には何かの生き物のように脈打つ紋様が浮かび、湿った空気が肺に絡みつく。
遠くからは滴る水音と、何かが蠢くような低いうなり声が聞こえた。
《ようこそ、マスター》
脳内に直接響いてくる声。
振り向くと、宙に浮かぶ漆黒の宝珠――これがダンジョンの心臓、『ダンジョンコア』だ。
《ここは貴方のダンジョン。
魔物を生み出し、侵入者を喰らい、糧とする場所。
この世界の理から外れた、真なる混沌の核です》
「……これが……俺の……」
アルスは冷たい石床に手をつき、闇の奥を見つめた。
遠い昔、学術院で読んだ古文書の言葉が脳裏をよぎる――
『すべてのダンジョンは世界を侵食する穴である。人の欲がその核を育て、魔の巣へと変わる』
《マスターの望みは何ですか?》
問いかけに、彼は迷わず応えた。
「奪われたすべてを――この世界から奪い返す。
王国も、貴族も、民も、すべて俺の糧にする。
俺の怒りと憎悪で、この地上を喰らい尽くす……!」
コアの宝珠が怪しく光り、その輝きに呼応するようにダンジョンの壁が蠢いた。
粘液に覆われた繭がひとつ、闇の奥で膨らみ、やがて裂ける。
現れたのは鋭い牙を持つ獣人――黒毛の体躯に黄金の瞳を宿した魔物だ。
「我が主……」
声を持つ魔物が、ガシャリと鎖の音を立てながら跪く。
獣人の背には無数の棘のような骨が生えており、獰猛な肉食獣のごとく鋭い爪が光っていた。
「お前が……最初の配下か」
アルスは震える指で、その額に触れた。
体温はある。だが、これ以上なく冷たい目。
人間としての理性は感じない。
《マスターの意思が、魔物に力を与えます。
欲するままに、殺し、喰らわせなさい》
獣人の牙が月光のように光った。
アルスの黒い外套がゆっくりと翻る。
「行こう。まずは隣村を潰す。奴らが俺の家を売り渡した“あの村”からだ――」
最初の侵略者は、月の見えない地下回廊を静かに歩き出した。
新たなる主と獣たちの饗宴が、いま始まる――。
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