第22話彼女の噂
「ねえ、聞いた?」
昼休み、購買帰りの階段で、女子たちの話し声が耳に入った。
「美羽ちゃんと相澤くん、同じ進路希望なんだって」
「え、ほんとに? やっぱりお似合いじゃない?」
「うん。推薦目指してる大学も同じだって」
(……え?)
私は立ち止まりかけて、でも足を止めるのが怖くて、
そのまま通り過ぎるふりをした。
胸の奥で、小さな痛みがじくじく広がっていく。
(進路先……同じ?)
何も知らなかった。
湊がどんな進路を考えてるのかも。
美羽とそんな話をしていたなんてことも。
「ただいま」
教室に戻ってきた私に、湊が声をかけてきた。
「ごめん、ちょっと席外してた」
「うん、知ってる。購買、混んでた?」
「まあまあ。パンは買えた」
湊はいつもと変わらない顔で笑っていた。
それが、逆に苦しかった。
(本当に、何も変わってないのかな)
私はその笑顔を正面から見られなくて、
机に視線を落とした。
真央が私の横に座りながら、そっと言う。
「……詩、大丈夫?」
「えっ」
「顔、ちょっとこわばってるよ」
「……ううん、なんでもない。テストのこと、考えてただけ」
苦しい言い訳だった。
でも、言わなきゃ気持ちが溢れそうで。
湊は気づいてないのか、気づかないふりなのか
私には分からなかった。
放課後、美羽の姿を廊下で見かけた。
湊と話していた。
距離はそんなに近くない。
だけど、どこかふたりだけの空気が流れていて。
それだけで胸の奥がきゅっと締めつけられる。
私には、湊の将来の話なんて、
聞ける勇気がなかった。
(もし、彼女と同じ未来を見ているなら……)
そんなことばかりが頭の中を占めて、
私は教室を後にした。
冷たい風が吹き抜ける下駄箱の前。
春はもうすぐのはずなのに、
心の中だけが冬に戻っていくようだった。
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