A
私『
その当時から私はなんというか、ドライな子だった。保育所の赤組で、周りのみんながまさに幼い子供らしくはしゃぎ回る中、私は部屋の隅で大人しく膝を抱えていた。
動きたくない。と、そんな具合で。そんな私の隣で、私と同じように、大人しく座っていた女の子。それが、緋だった。
毎日、毎日。私と緋は一緒にいた。特に話もせず、干渉もせず。ただ、ひとりじゃない。近くにいればそんな安心感があって、居心地が良かったのだと思う。
そして、いつだったか。私は、もっと緋に近付きたいと思った。せっかくなら、友達になりたかったのだと思う。けれど、ろくに人と話すこともしなかった私は口下手で、話しかけ方が分からないままもじもじして踏み出せず、最初の一言を言うのに何日も費やして、ようやく、死ぬ思いで緋に声をかけた。
「…もうすこし…ちかくにすわっても…いいかしら…」
「………?」
緋はキョトンとして、その綺麗な緋色の瞳でしばらく私を見つめた後、小さな声で言葉を返してくれた。
「…うん。いいよ」
緋の声を聴いた時、凄く温まったのを覚えている。
それから、ずっと。私は緋の隣が定位置となり、緋もまた、私の隣を定位置としてくれた。
そして、日に日にその距離は縮まり、いつしか、私たちは肩の触れる距離にいた。
肩だけでも。緋の体温は温かくて、私は毎日が幸せだった。
「ずっと一緒にいよう」
保育所の年長で、そんな約束をした。
小学生になっても、ずっと。ずっと一緒に居続けた。
緋さえいてくれれば良かった。それ以外で幸せを感じられなかった。
緋の優しい声。優しい体温。いつも少し下を向いて憂いを纏う表情も、笑った時の輝きも。ほんの少し力を入れてしまえば壊れてしまいそうな脆さも。甘え上手なところも。全部が
───なのに。
「──
「………ぇ……?」
小学2年生の私には、どうすることも出来ず。
私は、唯一無二の大切な人と離れ離れになった。
それからは、誰とも関われなかった。
「この人は緋じゃない」
私にとって、人の判断基準はただ1つ。「
緋さえいればよかった。
この人生で……否、何度人生を繰り返そうとも。私のこの魂が大切にしたい人間はただ一人。緋だけだったのだから。
◇◇◇
小学生の間に4回、中学生でも1回転校をして、ようやく父の仕事は落ち着いた。家も建った。しかし、中3の冬。また父は転勤。母は父について行き、私一人が、この家と共に東京に残された。
高校で友達は結局できず。私は緋のことも忘れられず。
ずっとひとり。
高校2年生になった春休み明けに問題を起こし不登校となり、アルバイトをして音楽を聴いてベースを弾くだけの生活を送っている。
季節は梅雨。
どんよりとした空の下、今日も私はアルバイト先へと、細いくせに重たい足を動かして進む。
なんでこうまでして生きなければならないのだろう。
そんな疑問を持つが、私はきっと、ずっと心の中で期待しているのだ。
いつかまた、緋に逢えたら、なんて。
……To be continued
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