群衆の笑い声

なぜそこまで卑屈になれるのかは知らないが、ここのままだとふらっと死にそうだ。

勿論そんなことは関係無いしどうぞ死んでくださいだ。


「お前は仮面を被っていないのか」

「仮面を被るのは疲れるの。だからやめた」


人付き合いでの仮面。

誰しもが知らず知らずのうちに被り自分自身が傷つけられるのを最小限に抑えるために本能として身に着けているもの。

真実も嘘も裏切りも、全てがどうでも良くなるそんな代物だ。

だが被るにはそれ相応の体力がいる。

分厚くなればなるほど、硬くすればするほど疲れは大きくなって襲ってくる。


「貴方はいつまで被っているの」

「死ぬまでだな」


そう返答すると彼女は羨ましそうな、憐れむような目でこちらを見つめてくる。

彼女から見た自分はどれほど愚かに映っているのだろうか。

ピエロの仮面を被った馬鹿な自分を。

孤立によって生まれる、大衆とのズレによって生まれる阿呆な姿を。


「貴方は何をして笑うの」

「攻撃」


木々の葉が耐えきれなくなって落ちてくる雨水が全身を打ち付ける。

人からの笑い声や罵詈雑言、無責任な期待、勝手に語られる夢、それらが質量を持って体に降りかかるように。


「俺は笑わせるのは得意じゃない、笑われるのは得意だ。きっと皆そうだぞ」

「そうだねそれについては同意見だよ。きっと皆、自分よりも劣っている人物を探すのに忙しいし、劣らないように他人の足を引っ張ってる」


随分と意見が合うようだ。

まるで鏡の自分と話しているようで会話が楽、そう感じるのだ。


「相手へ親切をする人はどうなっているんだろうね」

「自分への見返り、つまりは得があるんだろうよ」

「つまりやっぱり自己中だと」


間違いだと言う意見がどこからともなく飛んできそうだが、どうか現実を見る事をお勧めする。

目をそむけたまま何かを言うのはやめてほしいものだ。


「みんな、愚民は笑っているよ。私みたいな子を」

「そうだな。間違った正義の名を関している言葉という剣で滅多刺しにしてくるだろうな」


考えることを止めた群衆はきっと日本だけでも人口の80%以上だろう。

民主主義というシステムによってメッキの正義を作り上げる。

人が創ったものを人が使うことがあるのならそれには絶対といいほど欠陥が生じる。

使う阿呆に創る阿呆ということだ。


「ただ君のその人を見下すような言葉は大衆に向けないほうがいい」

「何で?」

「心当たりがあって逆ギレを起こして襲ってくるからだ。そのせいで今の状態になっているんじゃないのか」

「確かにそうだったかも」

「人格が行動を形成するのか行動が人格を形成するのか、言葉が自分を定義するのか自分が言葉を定義して人格を作り上げるのか。君はどっちだと思う」

「正解はあるの」

「あるぞ」


この問の答えを見つけられたら少しはあの言葉使いもましになるだろう。

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