第75話
誰も居ないようなので、直美は下ろしてもらって、再び気密扉を閉鎖した。
「良し、これで次の気密扉からは開けっ放しにしても空気が無くならないね」
敵の事を考えると、次々と真空にしてしまっても良いのだが、生きている人を見つけて艦橋の位置を聞き出さないといけないから、皆殺しにするわけにはいかないのだ。
通路を進んでいくと、いくつかの小部屋が通路沿いにあったが、その中に人は居なかった。もっとも居たとしても、この区域は真空になってしまっているので船外服を着ていないと生きてはいないだろう。
「うーん。扉を閉めたから気密性が確保できたはずだけど、勝手には空気が供給されないんだね」
「空気……貴重……勝手には……供給しない」
空気の貴重性は身に染みて分かっている直美は、リム=ザップがの答えに納得しながら、通路を歩いていくと、再び気密扉が見えた。
「直美……敵が居る……」
「えっ! それじゃ、私はこの部屋に入っておくよ。何とか艦橋の位置を聞き出してくれる?」
「任せておけ……」
リム=ザップはそう言うと、馬鹿でかいキャノンブラスターを足のホルダーに戻すと、腰から警棒のような物を取り出した。
直美には、それが何か分からずに、リムザップが握っている物を見ていると、それは急に長さを伸ばしていく。
長さとしては、学校にあるモップのような長さになった。そして、その先端には光る斧が付いている。
「これ……バトルアックス……接近戦向き」
「う、うん、そうだろうね。平和的な使い方はしなさそうだもんね。えっと、その扉は破壊しても良いから……とにかく、気を付けてね」
直美はそう言うと、そそくさと通路横の小部屋に入って行った。
小部屋の中はなかなか整理が行き届いているようで、この部屋を使っていた人の性格が分かるようだった。小さな机と椅子が二脚、キャビネットは鍵がかかっているのか開かない。
机の上には倒れた写真立てのような物があった。直美は写真立てを起こそうかと手を伸ばしかけたが
――止めた。
この部屋を使っていた人の顔を知りたくないと、直前で思いとどまったのだ。
直美は壁にもたれるように、しゃがみ込んでジッと待つ。どうやら敵側から気密扉が解放されたのか空気が入って来たようだ。
真空で無音だった空間に、空気と共に音が戻ってきた。それと同時に、あけ放たれたドアの向こうで閃光が迸る。
多くの人たちが走り回る音や怒声が聞こえてくる。
直美の腕に取り付けられたデジタル表示を通じて、空気が存在していることが分かる。
「片付いたぞ……艦橋の位置が……わかった」
リム=ザップの声で、直美は顔を上げた。いつの間にか、直美は何も無い床を眺めていたようだ。
「良し! 行こう! そして脱出だ!」
直美は気持ちを切り替えて立ち上がった。直美が部屋を出ると、そこはスプラッターな環境に様変わりしていた。
あまり詳しく見ないように、リム=ザップの許へ走っていく。
直美は酸素ボンベからの供給を止めて、外部から空気を取り入れるように切り替えた。少しでも酸素を温存するためだったが、その対応が失敗だったと気づかされた。
何とも言い難い匂いがヘルメットの中に充満してしまった。
「はぁ~。もう少し離れてから切り替えれば良かったな」
ブツブツ言いながらも、酸素の残量の方が大事だと自分に言い聞かせてリム=ザップの後ろを付いていく。
「艦橋に、人は居るのかな。特にユーグって人も」
「ああ……居る……また戦闘になる……直美は手前で隠れて」
「だよねー。帝国の第二皇子だっけ? そりゃ皆で守ってるよね。その人を生け捕りにしないと、解除出来ないのかな?」
「たぶん……パスワードか……生体認証」
「素直に話してくれると良いけど……」
二人は、そんな話をしながらも、何とか艦橋へとたどり着いた。途中何度か襲撃があったが、生け捕りにする必要は無かったので、キャノンブラスターの放射範囲を広げて貫通力は弱まるが、広範囲への攻撃を優先することで、片っ端から倒していった。
「直美は……ここに隠れて……」
艦橋に入る扉の手前上に登れる階段があったので、直美は階段の下に隠れる事にした。
ヘルメットが邪魔で完全に隠れる事は出来なかったが、安全のためにもヘルメットを脱ぐ気にはならない。
「まあ、隠れると言うか流れ弾に当たらないようにすることが目的だから、このままで良いか。じゃあ、後はよろしくね」
リム=ザップは、サムズアップのハンドサインで直美に答えた。
直美はヘルメットで視界が狭まるなか、辛うじてリム=ザップの動きを目で追った。キャノンブラスターの側面に付いているレバーを操作して、レーザーの照射範囲を狭めているのだろう。
ドォォン! という大きな音と共に艦橋に入る扉が弾き飛ばされる音が聞こえてきた。
直美も、艦橋の様子が気になったが、足を引っ張らないようにジッとしておく。
ヘルメットのマイクを使えば、少しぐらい離れていてもリム=ザップと話せはするが、戦闘中に気が散るだろうと思うと、話しかけるわけにもいかない。
暫くは大きな音と光が漏れて来ていたが、ふっ静かになった。
おやっ、終わったのかなと思った瞬間、直美のヘルメットにコツンと何かが当たる音がした。
何かが飛んできたのかと体を傾けようとした途端、腕を掴まれ、そのまま引っ張られた。
「なっ! ……あら、久しぶりですね。お元気でしたか?」
直美の事を引っ張り出したのは、ユーグだった。彼の手には銃があり、その銃は直美のヘルメットに突き付けている。
ユーグが、バイザー越しに直美の顔を確認する。すると自分が捕まえた相手が誰なのか分かったようで、すこし驚いた顔をした。
「こんなちっこい兵士は居ないだろうと思ったが、やはり、あの時の小娘か。わざわざ艦長自ら乗り込んでくるとは、見上げた度胸だ。殺すには惜しいな」
ユーグは、直美を盾にするように後ろから片手で軽々と抱きかかえた、ただし、銃だけは直美の頭部を狙い続けている。
直美は、ユーグに抱きかかえられながら艦橋に入った。
「あなた、艦橋にいなかったの?」と直美はそう言いながらも、ヘルメットの中で首を動かしてリム=ザップの位置を確認する。
リム=ザップも直美が人質となっていることに気づき、身動きが取れなくなっている。
「ああ、たまたま船外服を取りに行っていたのでな。それにしても、なかなかやってくれる。まさか気密扉の解放とはな。お陰で専属の魔導士は全滅だ。それで、やむを得ずブリッジに居た全員の魔力で、何とかヘリオスから脱出をと考えていたのだが、どうやら、それも不可能にしてくれたようだな」
艦橋には八人ほどの人間が倒れているのが見える。どうやらリム=ザップによって全滅させられたようだ。
「魔導士……ああ、魔力供給者の事か……帝国軍では、カッコつけて魔導士とか呼んでいるんだっけ? それで? 身動き取れなくなったから、腹いせに私も道ズレにしようって事?」
「馬鹿馬鹿しい。なぜ俺が貴様らと死なねばならんのだ。それよりも、安全にここから抜け出せる方法を思い付いただけだ。貴様、魔導士と聞いているぞ。一旦、この場は休戦して、この船を動かせ。安全な宙域に出たら、貴様たちには救命カプセルをくれてやる。どうだ? お互い損はないだろう?」
直美には、背後にいるユーグの顔は見れない。それでも彼が焦っているのだけは分かる。彼は、艦長では無いが、それでもこの場所の危険性は理解しているのだろう。このデカブツは徐々に高度を下げているはずだ。
「もうすぐ、脱出限界点に到達するよね。はぁ……分かったわよ。どうせ、ここまで来ると救命カプセルでは脱出できないし。ちょっと計器を見ても良い?」
直美を管制席の前まで抱えたまま運ぶと、ようやく床に降ろしてくれた。
直美が管制席に座ると、ユーグが艦内のどこかに繋がっているマイクのスイッチを押したようだ。
「ふん。妙な真似をしたら、直ぐに撃つからな。おい、誰か居るか? ああ、そうだ。……艦長含めてブリッジスタッフがやられた。賊は俺が捕まえている。お前たちはサイボーグ用の拘束具を持ってブリッジに上がって来い」」
相手の話し声は聞こえない。突然捕まってしまったので、しっかりとユーグの姿を確認していないが、おそらくインカムでも付けているのだろう。
取りえず、ユーグの事は放っておいて現在位置と高度を確認する。
――モニターに表示された値は、すでに危険な状態を示していた。
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