第35話探偵の条件

翌朝


探田探偵事務所のソファには、丸くなったポチと、

それを見ながら紅茶を飲んでいるミナの姿があった。


「なんか……結局ポチ、しばらくここにいることになっちゃいましたね」


 

「ふむ、“自らの帰る場所を自分で選ぶ”

その自由、尊いのう」


「それ言いながらあなた、今朝トイレットペーパーの場所間違えて冷蔵庫開けてましたけどね?」


「それもまた探偵の条件“ミステリーを日常に持ち込む者”なのじゃ」


「違う! それはただのポンコツです!」


 

そのとき、事務所のドアがコンコンとノックされた。


ミナがドアを開けると、そこには絵美と和哉の姿があった。


絵美は優しくポチを見つめ、微笑んだ。


 

「お世話になりました。……今日、ポチを迎えに来ました」


 

和哉がややぎこちないながらも頭を下げる。


「本当に、ありがとうございました。

……これからは、ちゃんと向き合っていこうと思います。

父とも、絵美とも。……ポチとも」


 

「うむ、よきかな、よきかな!」


マヨイは得意げに頷き、片手を天に突き上げた。


「名探偵たるもの、事件を解くだけでなく、人の縁を結ぶのも仕事!」


「……今回はそれ、わりとポチのおかげですよね?」


「よろしい、助手殿! 探偵とは“何もしてない風に見えて、全部やってた感”を出す職業なのじゃ!」


「それ、探偵というよりプロデューサーとかプロポーズ失敗した男の言い訳みたいな……!」


 

ミナのツッコミが炸裂したとき、ポチがくぅんと小さく鳴いた。


絵美のもとにトコトコと歩いていき、しっかりと彼女の足元に寄り添った。


 

「帰ろうか、ポチ」


 

絵美が小さく言ったその一言に、ポチはうれしそうに尻尾をふった。


それはまるで“今度こそ、本当の帰り道”を見つけたようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る