第32話迎える者、迎えぬ者
ポチを連れて、草野家の門をくぐったのは、午後の陽が傾きはじめた頃だった。
「ただいま戻ったぞーい! 迷探偵、ポチ殿とともに凱旋す!!」
「そのテンションで叫ばれると、なんか誘拐犯が勝手に戻ってきた感じになるからやめてください!」
ミナのツッコミが入ったところで、
玄関から顔を出したのは依頼人・草野絵美だった。
「ポチ……! ポチっ!」
絵美は声を上げて駆け寄り、ポチを抱きしめた。
「よかった、無事で……ほんとによかった……!」
ポチは尻尾をふり、鼻を鳴らして絵美に顔をすり寄せた。
「感動の再会、じゃな」
「こういうとこだけ名言っぽく言うのやめましょう。普通にいい場面ですから!」
だが、その空気を打ち消すように、
奥の部屋からひとりの男性が現れた。
眼鏡をかけたスーツ姿の男。
絵美の夫、和哉だった。
「……戻ってきたのか。犬」
冷たい声だった。
「和哉さん……」
絵美が不安げに夫を見た。
ポチは彼の顔を見ると、ぴたりと動きを止めた。
「“ただいま”を言う相手が、そこじゃなかったということかのう」
マヨイがぽつりと呟いた。
「それ、詩的だけどちょっと怖いですよ!?」
和哉はしばらく無言だったが、
やがて深いため息をついて、言った。
「……犬が帰ってきたのはいいさ。
でも、家の中でまた問題を起こしたら、今度こそ処分する。わかったな」
「処分って……そんな……!」
絵美が青ざめる。
ポチは、まるでその言葉の意味を理解したかのように、
耳をしょんぼりと垂らして絵美の足元に身を寄せた。
ミナがそっとマヨイの袖を引いた。
「……なんか、変ですね」
「うむ、変じゃな。“この家に戻っても、帰る場所とは限らぬ”」
「だからそれ、名言っぽく言わないでください! 正論だけども!」
ふたりの目に、ポチの瞳の奥に浮かぶ“何か”が映っていた。
ただの帰巣本能ではない。
この家に戻る“意味”ポチが追っていたもの。
その真実に、迷探偵たちはもう少しでたどり着こうとしていた。
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