正者の躯

reo

   もう一度だけ 

半年という月日が流れても、くるみと穂乃果の心の傷は癒えることはなかった。


明るく元気だった小春が、突然交通事故で

この世からいなくなってしまったのだ。


いつも三人で笑い合っていた放課後の帰り道、他愛ないことで言い争いながら歩いた通学路。

どこを見ても、あの日の小春の笑顔が焼き付いて離れない。 


「ねぇ、くるみ」


ある日、珍しく穂乃果が重い口を開いた。

くるみは窓の外のどんよりとした空模様を眺めながら、生返事をする。


「小春に、もう一度会えないかな」


穂乃果の突拍子もない言葉に、くるみは顔をしかめた。

「そんなの、できるわけないでしょ」


「でも……降霊術ってあるじゃない? ネットで見たんだけど、本当に死んだ人に会えるらしいよ」


くるみは信じられなかった。

オカルト雑誌や都市伝説の類は好きだったけれど、まさか友人を呼び出そうなどと考えたこともなかった。 


「本気で言ってるの?」


穂乃果の目は真剣だった。

「うん。だって、このままじゃ、いつまでも小春のことばかり考えちゃう。もう一度、せめて声だけでも聞けたら……」


くるみは迷った。

そんな危険なことをしていいのだろうか。

もし本当に何か恐ろしいものが現れたら……。

しかし、穂乃果の悲痛な表情を見ていると

強く反対することができなかった。


くるみ自身も、心のどこかで小春に会いたいと願っていたのだ。


二人は、穂乃果が見つけてきたという降霊術の方法を試すことにした。


深夜、くるみの部屋に集まり、白い布を広げその上には、微笑む小春の写真と、清められた塩を少量置いてロウソクを灯した。


ネットに書かれていた通り、二人で手をつなぎ、静かに小春の名前を呼び始めた。


「小春……小春……聞こえますか?」


最初は何も起こらなかった。

ただ、ロウソクの炎が心もとなく揺れるばかり。

諦めかけたその時、部屋の隅で微かな物音がした。

二人は息を呑み、目を凝らす。


「……くるみ……ほの……か……」


か細い、聞き覚えのある声が聞こえた。

二人は顔を見合わせ、震える声で問いかけた。

「小春? 本当に小春なの?」

「……会いた……かった……」


声は確かに小春のものだった。

二人は涙があふれ、何度も小春の名前を呼んだ。 

しかし、その声にはどこか違和感があった。


小春の明るく優しい声とは違い、低く、じめっとしたような、まるで地の底から響いてくるような声だったのだ。

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