第12話副総隊長、怒りの鉄槌
「やほ~!ゆずちゃん!ま~た、無茶してんだって?」
軽いノリで病室に現れたのは、松本さら。僕の同期で、二十五歳。僕よりも身長が高く、本人いわく175センチらしい。
「ゆ、ゆずちゃん?!」と木田が固まっている。
「木田、黙れ。さら、ゆずちゃん呼びするなと昔から言っているだろ」
「松本さん、何で如月副総隊長の事をゆずちゃん呼びしているんですか?」と木田が余計なことを聞いてしまった。あいつは絶対また忌まわしいアレを見せるに違いない。
「木田さん知らないんですか?」
「え?何をですか?」
「これ、これっ!」とさらは嬉々としてスマホを取り出し、木田に写真を見せた。
「え??如月副総隊長女の子だったんすか?!」
「……なわけないだろ」
「あはは~!!昔のゆずちゃんは髪が腰まであって可愛かったんですよ~」
さらは次々と僕の過去の写真を木田に見せている。獅子神総隊長も「泣き虫で今と違ったよな」とまた僕の黒歴史を話してしまった!
「で、何で長かった髪を切ったんすか?」
木田が首をかしげた。さらも「それ、私も知らない!ねえ、なんで?」と乗っかる。
「それはだな……弦が任務で無茶して髪が誤って切れてしまったんだ」
獅子神総隊長は、じとっと僕を睨んだ。まあ、認めよう。昔の僕は今よりも無茶をしていた。ただ、それは弟と妹を探すため、他に道がなかったからだ。
「そ、それより!!何で髪は切らなかったんすか?願掛けとか?」
「髪を切りに行くのが面倒だっただけですよ」
「あ、……そうなんすね」
髪を切る時間があるなら、あの子たちを探す方がよほど有意義だ。木田は僕の事情を知らないから、ただのズボラだと思っているんだろうな。
そこへ、コンコンとノックの音が響いた。
入ってきたのは、多摩支部長と副支部長。明らかに怯えた様子で、そろりと頭を下げる。
「あ、あの失礼します」
「獅子神総隊長!!部下が勝手にすみませんでした!」
僕は思わず「……は?」と声を漏らした。自分達は悪くないとでも?部下に悪事を擦り付ければ処罰はないとでも思っているのか?
「獅子神総隊長」
「ああ。如月任せた」と名前を呼んだだけなのに、僕が言いたいことが分かってか任せてくれた。
僕は多摩市に来てからずっと怒りで頭がいっぱいになっている。
正規隊員の職務怠慢、予備隊員への体罰これが怒らずにいられるわけがないだろう。
「部下が勝手にしたから自分達は悪くないと?」
「そ、そうです!」
「支部長も自分も知りませんでした」
こいつらはおべっかをかいていればなんとかなるとでも思っているのだろうか?
「服装の乱れ、見回り中の飲酒に喫煙、予備隊員への体罰」と言いこいつらをギロッと睨むと、多摩支部長と副支部長は肩をびくりと上げた。
「これらを本当に知らないんですか?」
「し、知りません」とこの二人は素知らぬふりをしている。そうか、こいつらは“知らぬ存ぜぬ”で押し通せると思っているのか。
「木田に松本。馬場予備隊長と佐々木予備副隊長をここに連れて来い」
二人は「はっ!」と言い頭に右手を持っていき敬礼して、馬場君と佐々木君を呼びに病室を出た。多摩支部長と副支部長は流石にまずいと思ったのか、冷や汗が出始め顔色が悪くなっている。
やがて「如月副総隊長!連れて参りました」と木田とさらが馬場君と佐々木君を連れて戻ってきた。
僕が副総隊長と呼ばれこの2人が驚いていないのはきっと、あの時木田が僕のことを副総隊長と呼んでいたからなのだろう。それとここに来るまでに木田に説明されたはずだ。
「馬場予備隊長、佐々木予備副隊長貴方達に聞きます。正直に全て答えなさい」
「はっ!」
「はっ!」
2人は予備隊員とは思えぬ綺麗な敬礼をした。
「正規隊員の職務怠慢に予備隊員への体罰は知っていますか?」と聞くと、多摩支部長と副支部長はこの二人が答えるよりも先に「予備隊員の言葉なんか聞く必要なんかありません」や「この二人は噓を付くことで有名なんです」と邪魔してきた。
それを見た木田が「今この二人が如月副総隊長の質問に答えようとしていただろう!!」と窘めた。
馬場君が、まっすぐ僕を見つめて答える。
「はい。私と佐々木予備副隊長は正規隊員の職務怠慢に、私たち予備隊員への体罰を確認しています」
「あ、あの!如月副総隊長!それだけではありません!多摩支部長と副支部長は予備隊員の……女の子達にいかがわしいことをしようとしたんです!!」と佐々木君が震えながらも叫んだ。
その瞬間さらが無言で多摩支部長と副支部長の頭を鷲掴み地面に思い切り「ガンッ!!」と叩きつけた。
「このゲス野郎ども!!」
多摩支部長と副支部長はカエルがつぶれたような声を発し鼻血が出ている。
「あ、あの!!未遂なので……」
さらは多摩支部長と副支部長の頭を地面に押し付けたまま佐々木君に振り返った。さらの気持ちも分かる。子ども達に手を出そうとするなんて大人としても、人としてもあり得ない。
「如月副総隊長!……未遂で済んだのは……ある予備隊員の女の子のおかげなんです……。でも、人に物語武器の能力を使ってしまったんです……」と佐々木君が震えた声で続けた。
木田が「
「……規則違反ですね」
「私が代わりに処罰を受けます!ですので……その子は、見逃して貰えないでしょうか?」
「佐々木予備副隊長、そしてその子も処罰は不要です。これは僕たち大人が守れなかった、僕たちの責任です」
もっと、早くここに来ていればこの子達はこんな怖い思いや、大人の汚い部分を見ないで済んだかもしれないのに……。僕は、副総隊長として頑張っていたが何にもできていなかったのかもしれない。
「松本、手を離せ」
さらが手を離し、多摩支部長と副支部長は鼻を抑えながら起き上がった。
「わ、私達はそんなことはしておりません!そいつらの戯言です!!」
「そうです!支部長も私もそんなことはしておりません!予備隊員なんかよりも私達を信じて下さい!」
僕は、静かにベットを降りた。
「ふざけるな!!!」
風神のアンクレットを使い、突き刺すような強い風でこのクズ共を壁まで思い切り吹っ飛ばした。
壁に当たったクズ共は変な声を上げ痛そうにうめいている。
「あの風神を使いこなすのすご……」
「あの、木田さん。俺の記憶している限り、風神って技名も決まった動作もなく発動するから使いこなすの難しいと思っていたんですけど……」
「あの人の噂知ってるだろ?それは嘘でもなく事実だ。俺達と違ってあの人は天才なんだよ」と、木田と馬場君は横で、僕の邪魔をしないようにかコソコソと話している。
そのとき、獅子神総隊長が淡々と口を開いた。
「如月、いくら隊長格は物語武器の使用を正当な理由があれば人に使っていいとはいえやりすぎだ。……クズ共とはいえ、な」
「……はい」
「怪我人のくせに暴れるな。こいつらは俺が連れて行く」と、床で呻いているクズ共の首根っこをズルズルと引き摺って病室から出ていった。
が、直後に顔を出した。
「あ、そうそう。馬場、佐々木、それと三海をお前の小隊に配属にしといたからなー」と僕の返事を聞かずに再び去って行った……。
「……は?」
呆然とする僕の声だけが、病室に虚しく響いた。
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