第7話 理不尽な暴力




「見回りしながら、自己紹介をしようか。まず、予備隊副隊長の佐々木雪菜だ」

「弦君!私、佐々木雪菜!!蓮と同い年なの。よろしくね!」

快活な声とともに、ポニーテールの少女が手を振る。元気で年相応の雰囲気が、彼女の最大の魅力だろう。それよりも、僕より身長が高いのは少しショックだ。

「次は三海アレンだ」

「三海アレン、17歳。ハーフ。よろしく」

金髪でパーマでスラリとした体型。少しクールな印象の彼は、見た目も話し方も落ち着いている。

まだ出会ったばかりだが、予備隊を実質的に率いている感じが分かる。


「次、岡部陸だ」

「俺は岡部陸だ!空の双子の兄だ!15歳で好きな物はカレーライスで、嫌いな物は勉強!よろしくな、弦!」

元気で素直、まさに”普通の男の子”という印象だ。どこか柴犬っぽくて、つい頭を撫でたくなる。

「次、岡部空だ」

「あ、あの岡部空、ですぅ……えと、あの、私、人見知りなので、弦君のことが嫌いでこんな態度をとってるわけじゃないので……よ、よろしくね」

お兄さんの陸君とは正反対の控えめな性格らしい。正直、どうして予備隊に入ったのか不思議に思う。……でも、僕と同じくらいの背丈だ。空君と陸君は双子ということもあって親近感が湧く……僕の弟と妹は双子だから。空君に至っては雰囲気が妹に似ている。


「次で最後だな」

「俺は狡噛京介だ!お前と同い年だが、俺はお前よりも先に予備隊員に入ったから先輩を敬えよ!!」

……なんだこのクソガキは……めんどくさそうな奴と同じ隊になってしまった……最悪。


「京介~……ゆうて京介も予備隊員になったのは二か月前でしょ~。変わんないよ。そんなに嚙みついてるのどうせ弦君が京介より身長が高いからでしょ」と佐々木君が笑いながら狡嚙の頭を軽くコツンと小突く。


「雪菜予備副隊長っ!!でも、俺のほうが先輩なのは確かでしょ!!」

「お喋りはそこまでだ。見回りに集中しよう」

馬場君の一言で、狡嚙の声がピタリと止まる。指導の際に見せるあの静かな威圧感……彼が予備隊長として選ばれた理由が少し分かった。


だが馬場君のおしかりを受けてなお、馬鹿は嚙みつくのを止めないらしい。

「……こいつだって、すぐ辞めるに決まってる。なのに、蓮予備隊隊長も雪菜予備隊長もなんでこいつに優しくすんですか!!」

「京介……さっきの聞いてなかったのか?黙って見回りだ」

「で、でもっ!!」

馬場君は狡嚙を一睨みし、狡嚙がこれ以上喚かないよう静止した。



その後の見回りは、何事もなく一時間ほどで終わった……正規隊員が誰も同行者にいないことを除いて。


支部に戻り馬場君から「ここで解散!」と言われたので他の予備隊員達は寮や自宅に戻っていく。僕は隊員用の男性寮に行く前に軽く支部の中を散歩してから戻ることにした。


支部内を歩き回っていると、隊員からわざとぶつかられたりゴミを投げられたりした。

わざと聞こえるように悪口を言っていて幼稚過ぎると思ったが、子どもでもある予備隊員には耐えらんないだろう。


……ここの支部長は何をしているんだ?副総隊長の僕よりは忙しくないはずなのに仕事をサボリやがって!!

支部長室には行ってみたが支部長は不在。それどころか机にはホコリが溜まっていて人が長く使用していないことが分かった。



あてもなく不機嫌なまま廊下を歩いていると、角を曲がった先で信じられない光景が飛び込んできた。

その光景とは、馬場君が予備隊員達に殴る蹴るなどされている……その、周りには隊員達が止めるでもなくゲラゲラと笑っている。

「もっと、腰に力を入れて殴れ!」

「やれやれ~!!あっはっは~!」

「訓練なんだからしっかりやれ~!」


この状況は何なんだ?!これが訓練?馬場君は防御の姿勢すら取れていない。馬場君を殴る蹴る等々をしている予備隊員達の表情は泣きそうだ……。


「なっ……!」

お忍び視察なのを忘れ怒鳴ろうとした瞬間、誰かに後ろから口を塞がれた。僕の口を塞いだのは、なんと佐々木君だった。

「弦君、しっ……!」

佐々木君は人差し指を口元に添え、静かにするよう言ってきた。

あんなリンチを黙って見ていることなんてできない。

止めに入ろうとしたが、佐々木君に引っ張られ連れて来られた場所は人気が無い所だった。


「あの光景見たら、止めに入ろうとするのは分かるよ。私も出来るなら……止めたい。でも……」

「……何か、理由があるんですか?」と聞くと、佐々木君は泣きそうになりながらポぽつりぽつりと語り始めた。


「……ここの正規隊員見てさ、可笑しいと思ったでしょ?サボリに服装の乱れに勤務中の飲酒と喫煙……それを注意した蓮があいつらの標的になったの」

「……っ」

「蓮は真面目だから許せなかったんだろうね……。最初は軽い嫌がらせだった……物とか書類の紛失だったの。今はあそこまでエスカレートしてる。他の予備隊員まで巻き込んで……っ」

その声が震えている。彼女はきっと、何度も何度も馬場君を助けたいと思ってきたに違いない。


「……私は、あいつらを許せない。でも……下手に動けば、次に狙われるのは陸や空みたいな幼い子かもしれない。そんなの、耐えられないの」と言った佐々木君は、自分のことより他人を想いやれる優しくて強い子だな。


「……本部に報告しようとしたけど、正規隊員に邪魔されてそれも出来なかった……。蓮は抵抗出来ないの。本部の隊員になりたければ抵抗するなって脅されている……蓮はどうしても本部の隊員になりたいんだって」

「馬場予備隊長はどうして、本部の隊員になりたいんですか?」

「本部に憧れの人がいるらしいの……」

こんなに困っている子達がいるのに……気付かなかったなんて、僕はダメな副総隊長だな。僕だって予備隊員時には色々あったのに……。


「自分を助けてくれた憧れの人にお礼を伝える為に今蓮は我慢をしているの……理不尽な目に合っても……。正規隊員になれるまであとちょっとの辛抱だから、蓮の邪魔しないで」

「……っ」

僕はこの子達を大人としてちゃんと護って上げなければ……あんな怪物みたいな大人たちから。

でも、今日は佐々木君の切実な願いもあり……仕方なく我慢をすることにした。


僕は歯を食いしばり、唇を噛みしめる。今は動けない。……だけど、必ず終わらせる。

馬場君、必ず助けるからもう少しだけ耐えてくれ……。


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