第2話舐めてる奴は遠慮なくぶっ潰す

未完の封印を終え、クロとシロが待つ所に本を抱えて戻るとそこには信じられない光景が広がっていた。


「……は?」


クロとシロの首には、明らかに騎士の証である紋章のペンダントが光っていた──にも関わらず、10人の騎士達が剣を構えて彼らに睨みを利かせている。


なのに、何故こんな状況になっているんだ?


「クロとシロ落ち着きなさい」

二匹に落ち着くよう声をかけながら、僕は敵意むき出しの騎士ガーディアン達に視線を向けた。

「で?何故貴方達騎士ガーディアンが僕のパートナーに武器を向けているんですか?簡潔に述べよ」


すると、その中の1人がふてぶてしい顔で鼻で笑った。


「ガキが俺達騎士ガーディアンにそんな口の利き方で許されると思っているのか?俺達は弱ぇお前らをわざわざ、護ってやっているんだぞ!!」


この騎士ガーディアン達は本物の騎士ガーディアンか?副総隊長である僕にこんな態度普通は取れないだろ。騎士ガーディアンは規律がしっかりしていて、上官に楯突いたら罰則があるのにこいつら分かっていないのか?


僕は静かに一歩、前に出る。──怒りを抑え込みながら。

「階級と名を答えろ。それと、何故現着が遅れた」

声は静かだったが、僕の中では既に臨界点を超えていた。だからこそ、あえて抑えた。氷のように冷たい言葉で、確実に潰すために


「は?ガキのお前には関係無いだろ!黙れよ」

この騎士ガーディアン達は分かっていないのか?騎士ガーディアンは階級と名を問われたら答えなければならない規則になっているのを。


ああ、なるほど……。こいつらは規則をしていないらしい。


「答える気が無いのは分かった」

騎士ガーディアンの規則では、階級と名を問われたら民間人やたとえそれが新入り相手でも必ず答える義務がある。ましてや、副総隊長である僕が問うたなら尚更だ。


「これだけは言っておく、本日の15時に副総隊長室に全員必ず出頭するように」

そう言い残し、怪我や倒れた建物に取り残されている人達の救助を優先することにした。


あいつらが命令に従わず僕の部屋に来なくても、顔はしっかり覚えたので問題は無し。


それから約10分後、消防と救急、それに自衛隊まで到着して、本格的な救助活動が始まった。


でも、可笑しい……。


僕は救助で忙しく封印完了の報告は物語ライブラリー騎士ガーディアン団本部にはしていない……なのに、救助が開始されるのは誰かが勝手に封印完了報告を本部にしたっていう事。

誰が報告を上げたのか……必ず突き止める必要がある。あの場にいた者しか、知るはずがないのだから。


「舐めたことしてくれるな」


僕は消防の方達に救助を任せて、騎士ガーディアン団本部に戻ることにした。



本部に戻り副総隊長室で、あの連中が来るのを待っていた……。

時計を見れば既に15時30分を回っている。


「ふーん…… 副総隊長の命令を無視する。……本部所属だからと天狗になっているわけか」


部屋のドアがノックされる。あいつらがようやく来たのかと思ったが、現れたのは呼んでもいない木田だった。

「あれ?如月副総隊長??何でそんなにキレてんすか??」

「お前は呼んでない」

「めちゃくちゃキレてるっすね~。敬語消えてるっすよ~」

木田のことは無視し騎士ガーディアンの隊服に着替え、クロを呼びあいつらのいる所に案内させた。


そして、訓練場。


上官の出頭命令を無視したあいつらは、なんと訓練場で何事もなかったかのようにペチャクチャ喋ってサボっていた。しかも周囲にはあの10名以外も訓練場で吞気にサボっている……休日に緊急出動した僕を差し置いて、ダラダラしていると?


規律も緊張感もない。ただ惰性で動いているような空気が、訓練場全体を支配していた。


さすがに……許容範囲を越えている。


「こいつら、……木田、レベル5の封印物語を適当に一冊持って来い」

「えぇ?!如月副総隊長??何するつもりっすか?!」

「上官命令だ」と木田には有無を言わせずレベル5の封印物語を取りに行かせた。

封印物語とはそのままの意味で封印された物語だ。レベル5とは10段階中の真ん中の危険度だ。通常、訓練に使うのはレベル4まで。だが今回は、レベル5で反省させる。舐め腐っているあいつらには、丁度いいお仕置きだろう。



数分後、木田がレベル5の封印物語を持って戻ってきた。


「お前……アレ、なの持って来たな」

「そうっすか?キモいっすけど滅多に怪我や死ぬことはないと思ったんでこれにしたんすよ~」

木田から本を受け取り、封印札を剥がした。因みに、訓練場だけにシロに結界を張らせたので周りには被害はでない……訓練場はすごいことにはなるが。



封印札を剥がしたからモンスター達が本から溢れ出てきた……僕と木田は訓練場がよく見える建物の二階に移動し舐め腐っているあいつらを見ている。


「うわあーー!!巨大なナメクジだー!!」

「くっせぇ!!」

「キモいキモい!」

そう、訓練所に現れたモンスターは巨大なナメクジだ。木田が持って来たのは、”ナメクジ王国”という何とも形容し難い未完の物語だ。


ナメクジ王国の筆者は何をもって執筆していたのだろう?


訓練場が見える建物の二階から、慌てふためいている隊員達の様子を見下ろす。

ナメクジの粘液は徐々に服や武器、肌も溶かしてしまうから、動きが遅くても侮れない。


「うわー、あいつら大変そー」

「持って来たのはお前なのにすごい他人事だな」

「そりゃそうっすよ~。だって俺はしっかり訓練してるんすから〜」と、銀髪に染めている髪をいじりながら木田はあいつらを嘲笑している。


ふざけた奴だな……。


「何でお前みたいなのがモテるんだろうな」

「180㎝の高身長でイケメン。それに如月副総隊長の補佐っすよ? モテないわけがないっす」

その自信はどっから来るんだろうな……。


お、そうこうしているうちに訓練所では巨大ナメクジも数を増やしてすごいことになっている。



「……で、如月副総隊長はなんで総隊長にならなかったんすか?打診あったっすよね?」

「唐突だな……。目立ちたくないのと面倒。副総隊長だって断ったはずなのに勝手にさせられたし」

そう、僕は副総隊長になんかはなりたくは無かった!!組織のナンバー2ということで礼儀も必要だから、敬語でしゃべるようにとか気を付けなければならない……これも面倒だ。上司が礼儀もへったくれもない奴だから、僕がこんな役回りに……あのクソ筋肉め……いずれ、思い知らせてやる。


訓練場は阿鼻叫喚となっていて現状良くはならないと判断した。


「……仕方ない。これ以上は見てるこっちが恥ずかしい。副総隊長のメンツで、助け舟を出してやる」





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