空と少年
人生楽しみたい
第1話 気づき
見上げた空がもし、偽物だったら君たちはどうする?
流れる雲やその雲から現れる雨。それらが全て「観られている」ことを気づかせないための錯覚だったとしたら……
地球を「観る」僕たち。
これは、僕が「観られている」ことを初めて気づいた時の話だ。
——ア…
ふと、上を向くと真っ青で雲ひとつない絨毯が広がっていた。
いわゆる晴天というやつなのだろう。
僕は飛行場のアイスクリームをペロペロしている。
アイスクリームをひと舐めするたびに、胸がどんどん高鳴り続ける。
「行くわよ」
「はぁい」
お母さんに急かされて急いで飛行機に駆け出し、なんとか指定の席に僕は座った。
手には飛行機に乗る時に取ったいちご味、ヨーグルト味といった様々な飴があった。
これから、この窓の外の情景が日本から異国へと変わって、どんな体験ができるのかと思うと嬉しさや好奇心が心の底からどっと押し寄せてくる。
そしていちご味の飴を口の中に放り込み、ブーンと言うエンジンがかかる音が掛か
り、いよいよ飛行機が大空へ飛び出そう。
……という時にアナウンスが流れた。
『安全のためアイマスクをご着用ください。』
お母さんはすぐさまアイマスクを着け、他の乗客たちもみんなアイマスクをつける。
僕は少し不審に思いながらも、周りに合わせてアイマスクを着用し、すぐに寝てしま
った。
——あれからどのくらい経っただろうか。
目が覚めるともう飛行機は目的地のオーストラリアに着いていた。
「んん…」
ずっと窮屈な空間にいたから、腰とか首とか、関節とかがジーンとした痛みを発して
いる。
でも、そんなの僕には関係ない。今からオーストラリアの自然を独り占めできるんだから。
ホテルに着いた僕は荷物を置き、外へと飛び出した。
「っは、っは」
オーストラリアの都市、キャンベラから走って、走って、時々止まって、歩きながら周りを見渡して……走って……やがて、風景がビルや車の灰色から大自然の緑に変化していって……
「わぁ」
澄み切っていて雲ひとつない青空、そしてどこまでも続いているように見える黄金色に輝く草原。
夢で観た景色。時折、ピッピ、と囀る小鳥。そして…
「ごぐえ、ごぐえ」
カンガルー。
全身が茶色の体。目は黒でなく曇った白で、めずらしい。お腹には赤ちゃんを入れる袋がついている。僕はこの素敵な生き物にすっかり目を奪われてしまい、至る所まで観た。
僕はその時、はっとあることを思い出した。
「ほら食べてみて。おいしいよ」
僕はヨーグルト味の飴をカンガルーに差し出した。
カンガルーは白い目を僕に向けずそっぽを向いてしまった。
しょうがないので僕は飴を口の中に入れ、引き続き観察しようとすると
「ん?」
カンガルーのお腹あたりに謎の文字が浮かび上がっていることに気がついた。
今まで生きた中で見たことがない字。
……でも、なぜか、嘘みたいに、読める。
まるで僕がこの文字を読むために外から僕をアップデートしたみたいな……
「……我々は監視されている……?」
僕がそう言った瞬間、空がざらりとした奇妙な音を立てた。
肌になんとも言えない不快感を与える。
そして空一面真っ黒にバグった。
……虚無のような、無限の可能性があるような、そんな感じだった。
息をしようとしても吸えない。
さっきまでは口の中に感じていたヨーグルトの味がない。
何故かわからない。未知なモノを見た恐怖からかもしれない。
なにも吸えなかった。
なにも吐けなかった。
「呼吸」と言う人間の第一行為がなにも出来なかった
ヨーグルトの味さえ思い出せなく、口の中には味がしない硬い……硬いってなんだっけ?
僕は、僕は……
ばっと最後の力を振り絞り上を見てみた。
いまだに真っ黒な空が広がっている。
(これは、うちゅ……?)
おそらく其の後僕は倒れたか死んだ。
———ざっと十年ほど
僕は目を覚まし、辺りを見渡した。
何故か頭にぐわんぐわんとした音が響いている。
——十年?
十年。何故そんな言葉が頭に出てきたのかはわからなかった。
「……あ!」
僕は其の時、気づいた。
酸素を鼻から吸い、二酸化炭素を口から出す。
この当たり前ができる。
僕はなんだかうっとりするような、ほっとするような、がっかりするような不思議な
感じになった。
空はいつの間にか晴れていて、あのカンガルーも消えてしまった。
僕は呆然とその場に立ち尽くした。
なにか、遠くから聞こえる。
「ごぐえ、ごぐえ」
もういないはずのカンガルーが鳴き声をあげて、僕の方をじっと見た。気がした。
……なぜか、この……いや、あのカンガルーは偽物には思えない。
「本物」としてちゃんとそこにいた気がするんだ。
あの雲った白い目は全てを理解していたのか?
考えてもわからない。
「ごぐえ、ごぐえ」
其の声は頭の中で響いていて、まるで僕に空を見ろと言っているようだった。
僕は草原に独り佇み、静かに上を見上げた。
空は、青かった。
でもそれは、あまりにも青すぎて……不自然に何もなくて……
——まだ蒼いまま、か……
作られたように偽青かった。
事実か、思い込みか。
考えても考えても答えが見つからないなんて……
もう、疲れたよ……
続くかも?
空と少年 人生楽しみたい @191945450721kimoti
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