10 枕

幼い頃はキャラクターの枕だった。


大好きな魔法少女が良かったのに、好きでもない国民的人気のある可愛らしい猫の枕だった。

それが嫌で嫌で泣いても、枕を変えてはくれないから仕方なく使っていたら、いつの間にか愛着が湧いて手放せなくなった。


小学生に上がると、別のキャラクターの枕になった。


子供に大人気のモンスターが良かったのに、世界的人気のネズミと友達の枕だった。

それが嫌で嫌で投げつけても、枕を変えてはいけないらしく渋々使っていたら愛着が湧いて手放せなくなった。


中学生に上がると、キャラクターから柄物になった。


ストライプやシンプルな花柄が良かったのに、水玉や大柄な花柄のカバーを渡された。

それが嫌で嫌で床に叩きつけても、変更はきかないと言われて不満を抱えて使っていたら愛着が湧いて手放せなくなった。


社会人になると無地でシンプルな色の物を選ぶようになった。

誰に文句を言うでもなく、かと言って気に入ったものでもなく使えたらいい…それだけの理由で安い物を購入する。


手に取った触り心地がごわごわで寝つきが悪そうだとぼんやり思いながらレジに向かうと、懐かしい形の枕がそこにはあった。


その値段と材質に開いた口が塞がらず、他の枕もあるのかと歩けば小学生のときに使っていた枕と同じものがそこにはあった。


更に歩けば中学生のときに使っていた枕カバーがずらりと並んで、まるでシルクの絨毯のようだと手に取った。


そうだった。


子供の頃は肌が弱くて、枕一つ当たり心地が悪いと眠れなくて直接当たる部分の材質で頭に湿疹ができていた。

当時は今ほど、種類もなかったであろうそれを呆然と見つめ、今、手に持っている安い枕カバーを見比べる。


決して手軽に買える代物でないそれらを思い出しながら、手にしていた枕カバーを持ってレジへと向かう。


今度、家に電話しよう。


そう決めた数日後、新しい枕と好みの枕カバーが届くことをまだ知らない。

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