「これはもしや、

心（こころ）の病（やまい）なのではないかい。

何（なに）があったのか、

始（はじ）めからすっかり、

私達（わたしたち）に話（はな）しておくれ。

ミルクよ、

リリスが持（も）って

来（き）てくれた薬草（やくそう）で、

お茶（ちゃ）を入（い）れてやって

くれないかい。

それでケンの心が、

すっかり落（お）ち着（つ）く

だろうから」

　オーティスが、

ケンのせなかにまくらを

置（お）いてやりました。

彼（かれ）は上半身（じょうはんしん）を起（お）こすと、

ミルクの入（い）れたお茶（ちゃ）を

そろそろと飲（の）み始（はじ）めました。

そしてぽつりぽつりと、

事（こと）の成（な）り行（ゆ）きを、

全（すべ）てみんなに話（はな）したのです。

話（はな）を聞（き）き終（お）わると、

まずミルクが言（い）いました。

「まあ、ケンちゃん！　

あなたの話（はな）は、

ひょっとすると

全（すべ）てが真実（しんじつ）ではない

かもしれないわよ。

ケンちゃんが

吉右衛門（きちえもん）さんを

『天才（てんさい）だ』と感（かん）じたり、

『ネズミ大先生（だいせんせい）が

吉右衛門（きちえもん）さんを、

ケンちゃんよりも

才能（さいのう）がある生（い）き物（もの）だ

と思（おも）った』のではないか

と感（かん）じただけで、

実際（じっさい）はそうではなかった

かもしれないわ。

直接（ちょくせつ）本人（ほんにん）に聞（き）いて、

確（たし）かめたわけでは

ないのでしょう？」

　するとケンは、

悲（かな）しく首（くび）をふりました。

「ぼくのかんちがいで

あるはずはないよ。

ネズミ大先生（だいせんせい）だけではなく、

あの会場（かいじょう）にいた

全（すべ）ての生（い）き物（もの）が、

彼（かれ）を天才（てんさい）だと感（かん）じたのだ。

そのしょうこに、

吉右衛門（きちえもん）君（くん）は発表会（はっぴょうかい）で

一等賞（いっとうしょう）を取（と）ったんだぜ」

「二等（にとう）や、三等（さんとう）は

だれだったの。

それはケンちゃん？」

　オーティスに

たずねられると、

ケンはマグカップに入った

お茶（ちゃ）を見（み）つめながら、

深（ふか）いため息（いき）をつきました。

読んでいただき、ありがとうございます。

次回の掲載は２０２５年１１月１９日です。

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