第2話 騎士と聖女

ガタゴト、ガタゴトと、1台の馬車が荒れた道を移動している。


ごく普通の幌馬車、御者台には男性と女性の一組。

荷台にはある程度の荷物と、鎧が転がっていた。


男は騎士であり。

そして、女性は聖女であった。



彼らは数時間前、王城の王の前に呼び出されたのであった。


王いわく。

「悪龍討伐を命じる。」


呼び出された男性と女性は目を見張った。


なぜなら彼らは一介の兵士であり、修道女であった。


「騎士アトム、聖女ウラン。名誉ある王命を粛粛と受けよ。」

王座の段より一段下がった所に立っていた宰相が声を上げる。


「誇り高きよ、慈愛なるよ。見事悪龍を討伐してくるがよい。」


そしてそのまま幌馬車に放り込まれ、王都を追い出されたのであった。

それも、たった二人で。


「俺、兵士で騎士じゃないんだけど。」

「奇遇ですね、私も聖女ではなく修道女なんです。」

呆然としていた二人は、やっと意識を取り戻したように話し出す。


「なんで、騎士? 」

ぼそりとアトムが呟く。


「悪龍討伐て、なに? 」

手綱を握り締めながらやはりアトムは呟く。一介の平民の兵士であったアトムには分からない事ばかりである。


「たぶん悪龍討伐に、平民の兵士を送り出すのは差し障りがあるからと思われます。」

ウランは応えた。

一介の平民の兵士のアトムより、男爵家の貴族だったウランの方が物事は分かっていた。


だとしても彼女も貧乏男爵家の四女で、平凡の容姿なので婚約もできず口減らしの為に修道女になった者であった。


「悪龍の噂は聞いた、確か遠くの小さい村に現れたと…… でもさ、討伐って騎士の仕事じゃないのか!? 」

「ええ、だからを騎士に繰り上げしたのでしょう。」

そしてウランは溜息をついた。


「私を聖女にしたように。」


その通りであった。

王都から遥か離れた小さな村に、わざわざ討伐隊を出すつもりはない考えである。しかし誰も出さないのは醜聞が悪い、ので彼ら二人を格上げして討伐へと送り出したのであった。


「聖女など、地位の高い貴族がなるものですし。一介の貧乏男爵家の、既に家を出た私がなれるはずはありません。」

侯爵家以上の貴族か王族の女性が、聖女の名を維持していた。


なぜならば【聖女の杖】組み込まれた魔力結晶は穢れを払い、癒やしを与える。


【聖女の杖】を持てば、聖女の出来上がりである。なので、見目麗しい高位貴族のご令嬢が聖女の名を得ていたのである。


荷台には、申し訳ばかりの【聖女の杖】も乗せられていた。小さな魔力結晶が組み込まれている【聖女の杖】である。


「なんで俺達が、悪龍退治!? しかも2人、どういうこと!! 俺、勇者じゃないんだよ!! 

龍だよ、ドラゴンだよ、普通討伐隊が組まれるだろ!! 」

アトムは自分がどれほど、一般の平凡兵士かを叫ぶ。


「討伐隊を王都から遥か離れた小さな村に送るより、見捨てた方が損になりませんから…… 村人も避難するでしょうし。」

「えっ、見捨てるの? 」


「そんなものですよ。王都に近づいて来るならともかく、遥か離れ小さな村など見捨てた方がよい。悪龍にちょっかいをかけて、コチラに向かってあこられるよりかは。との考えでしょう。」

ウランは溜息混じりに応えた。


「じゃ、俺達は!? 」

「対処はしたと、民に対する言い訳の為の人材です。」

「つまり…… 」

「人身御供、生贄です。」

ウランはアトムに顔を向け、目を見つめ合いながら真実を語った。


「2人で、討伐て無理だよな。」

「勇者じゃなければ、無理ですね。」


「俺、勇者じゃない…… 」

「そうですね。」


「死ねってこと? 」

「兵士から騎士へと、二段階昇級ですね。」

名誉ある死を遂げた者に与えられる二段階昇級。残された家族の恩給の為の制度である。


「俺、孤児だし嫁さんもいないから!! 」

「名ばかりの名誉騎士です。」


アトムは手綱を握りしめ、体を震わせた。


二人で悪龍を討伐できるはずはなく、王の名誉を守るための人身御供。死んでこいとの二段階昇級。


「嫌だ、死にたくない…… 」

「では、逃げましょう。」

「えっ? 」

アトムはウランの言葉に驚く。


「どうせ討伐できるとは思ってないでしょう。戻らなければ死んだとみなされ、名誉ある死と称えられて終わりです。」

ウランの目には、自分と同じ死にたくないとの意思が見える。


「逃げよう。」

「はい、逃げましょう。」


二人は馬車を、悪龍が出たとされる方向と逆の方へと走らせるのであった。



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