第50章「線の、その先へ」

ステージのライトが再び落ちた。

 審査員席に重たい沈黙が走る。

 観客は息を潜め、結果を待っている。


「優勝は――」


 MCの声が会場を切り裂いた。


「Silent Riot!!!」


 瞬間、横浜ベイホールの天井が吹き飛ぶかと思うほどの歓声が響いた。

 ことねは思わず膝から崩れ落ちそうになる。

 彩葉がその肩を抱き、芽依が後ろから支える。


 ――優勝。

 町田から始まった音が、横浜で証明された。



 東雲りなは両手を振り回し、やよいは泣き笑いで叫んだ。

「やったーっ!!!」

 響は黙って手を叩き、詩織は胸を押さえ「揺れが…喜んでる」と呟く。

 猫丸は腕を組み、にやりと笑った。

「線は切れねえな。……次はもっと太くなる」

 べすは尻尾を振りながら、ことねの方へ向かって吠えた。



 敗れた《Killer Candy》《LIME SQUAD》《Lady Bass》の面々も、口惜しそうにしながら拍手を送る。

 ライバルたちは知っていた。

 Silent Riotの音はまだ荒削り。だけど、そこに未来があった。


 REINAが近づいてくる。

 キャップを目深にかぶったまま、彼女は短く言った。

「――優勝おめでとう。

 ただし、ここからが本当の勝負だ。全国は、もっとえげつねぇ」


 ことねは汗まみれの顔を上げ、息を切らしながら笑った。

「……知ってる。だから――行く。線の、その先へ」


エピローグ


 数日後。町田の街。

 Silent Riotの三人は、サイゼリヤの窓際席でいつものように机を囲んでいた。

 テーブルにはリコリスの弁当、ドリンクバーのカップ、ノートPC、リリック帳。

 隣の席では北山望が「女子高生って最高だよなぁ」とつぶやき、橘姉妹がケラケラ笑っている。

 その風景は、相変わらず騒がしくて、あたたかかった。


「次は全国」

 彩葉がペンをくるくる回しながら言う。

「……怖くない?」芽依がぽつりと呟く。

「怖いよ」ことねは即答した。

 だがその顔には、迷いがなかった。


「でも、線はつながってる。

 町田から、横浜へ。次は全国。

 ……だから大丈夫。私たちの音は、途切れない」


 窓の外、町田の街路樹が風に揺れる。

 線は町田から伸び、未来へと続いていく。


Silent Riotの物語、第一部「町田編」――完結。

だが伝説は、まだ始まったばかりだった。

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『16barsの鼓動』 猫師匠 @neko5150

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