第49章「三曲勝負」

横浜ベイホール、観客席は立ち上がりっぱなしだった。

 南関東ブロック決勝――三曲勝負。

 ジャッジ席には業界を代表する面々、そしてその端にREINAの影もある。


一曲目:《Backstage Riot》


 ことねがマイクを掲げた瞬間、ビートが轟いた。

 彩葉の声がフックを切り裂き、芽依のスクラッチが火花を散らす。

 歌い慣れたこの曲は、Silent Riotの「名刺」。

 町田で初めて観客を揺らした夜、そのままの熱を横浜に叩きつける。

 ――観客が拳を上げ、フロアが一斉に跳ねた。


「町田から来たぜ! Silent Riot!!」

 ことねのシャウトに、地鳴りのようなコールが返る。


二曲目:《鼓動 -KODOU-》


 息を合わせ、間髪入れず次の曲へ。

 イントロは詩を刻むようなピアノ。そこに彩葉のフックが乗る。

 ことねは呼吸を刻み、言葉を連射した。

「刻む鼓動は止まらない 町田の街が産んだ拍動!」


 芽依の手元が震えていた。だが、その震えごと音へ変える。

 彼女の過去――孤独の夜。ヘッドホンの中で泣きながら救われたビート。

 その記憶がスクラッチの一音に刻み込まれていた。

 観客の身体が波のように揺れる。

 涙を拭う観客の姿がちらほら見えた。


三曲目:《Line》


 照明が一度、すべて落ちた。

 ことねが深呼吸をする音まで、会場に響いた。

 芽依がBPM92を刻む。彩葉が指を鳴らし、メロを口ずさむ。

 そして――新曲Lineが走り出した。


「町田で拾った声、横浜で鳴らす

 まだ名もない熱を 未来に渡す

 線は私たち 線は鼓動

 ランウェイじゃない これは道路!」


 言葉が光の矢のように観客に突き刺さる。

 彩葉のフックが重なり、芽依のスクラッチが未来を切り裂く。

 ――三人の線が重なり、一本の太い道になる。


 ステージの端、東雲りながポスターを振り回し、やよいが大声でコールする。

 響は涙をこぼし、詩織が「揺れが、走ってる」と呟く。

 猫丸がべすを抱きかかえ、みのたが「これが町田の未来だ」と目を細める。


 最後のサビ、彩葉が叫んだ。

「切らせない! この線は――全国に伸びる!」


 ライトが一斉に爆ぜた。

 Silent Riotの三人は、燃え尽きたようにステージ中央で息を合わせる。

 フロアは割れんばかりの歓声。

 町田で始まった音は、今――横浜を越えようとしていた。

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