第48章「光の刹那」

横浜の海風は夜でも熱かった。

 決勝会場――南関東ブロック・ファイナルの大ホール。

 観客のざわめきはすでに海鳴りのようで、ライトテストの閃光が天井を切り裂く。


「……すげぇ」

 北山望が腕を組みながら天井を仰ぐ。

 その横で東雲りなが「町田代表だよ? Silent Riotだよ?」と誇らしげに叫び、やよいが「ポスター貼る場所足りない!」とバタバタしている。

 響と詩織は静かに客席を見渡し、詩織が小声で言った。

「揺れが集まってる。きっと、音で解き放つんだね」


 ステージ袖。

 ことねは目を閉じ、深呼吸を繰り返す。

 彩葉がペットボトルの水を差し出す。

「喉、焼き切らないでよ」

「……平気。むしろ、燃えてたい」


 芽依は無言でターンテーブルを撫でる。

 その掌はわずかに震えていたが、指先の動きは迷いがなかった。

 彼女の瞳の奥に、一瞬、暗い影が宿る。

(……あの夜、私は音に救われた。今度は私が、音で仲間を救う)


 場内アナウンスが轟く。

「決勝ステージ――Silent Riot!」


 歓声が爆発した。

 フロアの視線が、一斉に舞台袖へ吸い込まれる。

 ライトが落ち、ビートのサンプルが低く唸る。


「いこう」

 ことねが呟く。

 彩葉が指を鳴らす。

 芽依がヘッドホンを耳に押し当てる。


 三人の視線が交わり、同じ温度で火を宿した。


「町田から引いた線、ここで太くする」

 ことねがマイクを握る。


 扉が開いた。

 まばゆい光が、彼女たちを包み込む。

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