第45章「Answer - 返歌 -」

暗転。

ざわめき。

鳴り止まぬ拍手と口笛が、Killer Candyの毒舌漫才風ラップの余韻を引きずっていた。


しかし、次のステージへ進むためには、もう一つの「声」を聴かなければならない。

審査員席の1人がマイクを取る。


「さて、次はSilent Riot。どう反応するか、楽しみにしてるよ」


ステージライトが再び灯る。

ことね、彩葉、芽依の三人が登壇。


芽依がターンテーブルの前に立つと、深く一礼し、ヘッドホンを装着。

やがて、静かにベースラインが鳴り始める。


そして、ことねの声が重なる。


「舌が回るのは羨ましいけどさ

 言葉の刃で笑い取ってるだけじゃない?」


「こっちは声にならない日々を

 少しずつ 少しずつ 重ねた詞(ことば)だよ」


会場が静まりかえる。

先ほどまでの喧騒が嘘のようだ。


彩葉のコーラスがハモる。

息を飲むようなリリックの波が、静かに、でも確実に客席を満たしていく。


「毒より深く刺さる 優しさを

 強さに変えて マイクに刻む

 私たちは沈黙を脱いだ

 今、音にしてあなたに届ける──」


芽依のスクラッチがラップの切れ目に絶妙に入り込む。

まさにチームで磨かれた“ユニット”の一体感。

ことねのラップは、Killer Candyのように派手じゃない。


だが──


心に、届く。


「言い返すためじゃなく

 伝えるために歌ってるんだ

 Silent Riot──

 これは、私たちの“Answer”」


楽曲が終わった瞬間、数秒の沈黙のあと、

客席から自然と湧き上がる拍手と「すげえ……」という囁き声。


その中に、サイゼの制服を着た男の声が混ざっていた。


「……あー、やっぱことねちゃん、最高すぎんだろ……」


北山望、Silent Riotのライブに密かに潜入中。


ポケットには町田忠生公園で拾ったチラシと、

こっそり集めた高校生イベントのパンフが詰まっていた。


「ちっ、彩葉ちゃんも可愛いし……芽依ちゃんもええな……。

 あぁ〜、女子高生って……やっぱ世界の宝だよな……」


──がっかり系フリーター、まさかの観客席から登場。


会場の熱気の中で、北山の声など誰にも届かない。

それでいい。


届いたのは、Silent Riotの“Answer”だったから。

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