第44章「パンチラインの向こう側」

観客のざわめきが、少しずつ熱を帯びていく。

Silent Riotのステージが終わり、控室に戻る道中、ことねの顔は青ざめていた。


「う、うわ……あの子たち、マジで強そうだった……」


「どの子?」


彩葉がポカリを飲みながら、肩をすくめた。


「Killer Candy。あの千葉の毒舌双子MCコンビ」


「うん、わかる。でもさ、やるしかないよね」


芽依はPCを閉じながら、トラックのデータをバックアップし終えたところだった。


「彩葉、次の曲……あんたが歌ってみる?」


「……えっ?」


🎧千葉代表ユニット《Killer Candy》

NATSUとSUZUNE――ツインMC。

毒舌と笑顔、挑発と説教をリズムに乗せて叩きつける“千葉の毒りんご”。

彼女たちのステージは、まるでラップという名の漫才。

会場は爆笑と、パンチラインへの拍手で揺れていた。


🎙️【NATSU】

上京ガールズ、夢見てんの? 田舎もんのサイレントRiot

見た目はJK、中身は迷子。マイクも持ち方ぎこちないの?


🎙️【SUZUNE】

こちとら千葉で修羅場育ち

君らの韻じゃ ゆるくて腹立ち!


会場が爆ぜた。

明らかにことねたちを指していた。あからさまなディス。

だが、それに対し――


🎤Silent Riot 第三楽曲:『Answer -応答-』(抜粋)

芽依が新たなビートを刻む。

浮遊感あるシンセに、パーカッションが絡み、低音が鳴る。

――静寂に切り裂く、ことねの声。


🎙️【ことね】

誰かの嘲笑(わらい)は、道の上に咲く雑草

踏まれても生きる、その強さがスタンス


🎙️【彩葉】

可愛いとか田舎とか? ラベル貼って安心すんな

わたしら、言葉で戦う革命のユニフォーム


🎙️【ことね】

これがSilent Riot、静かなる暴動

笑いたければ笑えば? でも――

君らのパンチライン、今夜は不発


芽依のターンテーブルが炸裂するように回る。

会場が、拍手に包まれた。



「うわー、超ヤバかったね、今のパンチ返し!」


やよいがガンプラTシャツを握りしめ、拳を振る。

まことが興奮して言う。


「ことねちゃん、あのままじゃ泣きそうだったのに……よく踏みとどまった!」


「……あれが音楽の底力かもね」


東雲りなは、少しだけうなずいた。


そのすぐ隣。べすがわふんわふんと落ち着きなく動く。


「こら、べす、ステージ飛び込むなよ」


猫丸が苦笑して制止する。


「てか、Silent Riot……意外とパンチ、あるじゃん?」


その横で、北山望が双眼鏡でことねを追いながら、


「はぁああああ、ことねぇぇぇ、今日も世界一可愛いよぉおお!!」


「……出たな、がっかり系フリーター」


響と詩織が冷ややかな目を送った。


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