第43章「挑戦者たちのアンセム」

空の色が、町田より少し濃い気がした。

東京湾の潮風が吹き抜ける、横浜ベイサイドスタジアム。

ここが――全国ラップユニット大会「U-VOICE GRAND PRIX」予選ブロック、南関東会場。


「……うわ、会場広っ」


ことねが小声でつぶやく。

それもそのはず、全国から女子ラップユニットが集うステージ。

町田とは比べ物にならない熱量が、この地には渦巻いていた。


控室Bブロック

「ちょっと、ことね、顔が真っ青よ?」


彩葉がペットボトルを差し出しながら、ニヤリと笑う。


「どーせ吐きそうなんでしょ? いつものやつ」


「……そ、そんなこと……あるけど」


「うん、知ってた」


芽依はというと、もうトラック調整に入っていた。

PC画面には、新たな楽曲鼓動 -KODOU-の波形が走っている。


「ことね、大丈夫。次の曲、今までで一番ヤバいから」


芽依はふっと笑って、ふたりに目を向ける。


「“ことねのための曲”って感じ、したから」


ことねの鼓動が一瞬、リズムと同期した。



「おっ、ここが町田代表っすか?」


最初に声をかけてきたのは、横浜代表ユニット《LIME SQUAD》。

レゲエ×ヒップホップの陽キャチームで、リーダーは陽気な子、SHO-KA(翔夏)。


「“Silent Riot”、ウチらの前に消えんなよ? ま、せいぜい暴れてこいよ!」


その隣には、千葉代表Killer Candyもいた。

毒舌系ラップのツインMC、NATSUとSUZUNE。こちらは少し棘のある目。


「ふーん、女子三人組ね。ちょっと意識しちゃうかも?」


「ま、ウチらのパンチラインに耐えられるかしら?」


こうして、ことねたちの全国初陣は、

一瞬で火花が散る状況となった。


🎤Silent Riot 第二楽曲披露 『鼓動 -KODOU-』

🎙️【ことね】

誰かの期待も 視線も超えて

言葉は刃(やいば) 胸の鼓動だけ

無名でいいよ 名前より強く

音に刻むのは “私の証”


🎙️【彩葉】

夢とか希望とか そんな大層なもんじゃない

ただ、伝えたいだけ “今”を

だからマイクは離せない


🎧【芽依(Scratch)】

(─skrt─skrt─)

鼓動…こどう…こころのドウッ!


審査員席がざわついた。

観客席の一部で、スタンディングの波が生まれる。


「やべ、刺さった…」「あの子らマジだ…」



「わー! ことねたち、めっちゃかっこいい!!」


会場後方には――詩織と響、りな、やよい、まことたちの姿があった。

やよいが手を叩きながらつぶやく。


「模型と違って即興性はないけど、“作る”って意味では通じるとこあるわよね」


東雲りなは肩を組みながら笑った。


「ね。あたしらもやってやろうぜ、静岡編!」


その後方では、猫丸が愛犬べすとともに。


「お、Silent Riotの“裏拍”、ちょっと乗ってきたなぁ」


べす「わんっ!」


「……こらべす、舐めに行くなよ。今回はステージ登っちゃダメだぞ?」


その隣に、みのたがうなずいた。


「いいねー!! あの、あれ、マイクで韻! いいねー!!」


「……なにが?」

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