第40章「君がくれた声で、私は叫ぶ」

放課後のサイゼリヤ忠生店。

氷が溶けかけたドリンクバーのグラスを前に、彩葉はいまにも泣き出しそうな顔でことねを見ていた。


「──私、ずっとさ。ことねが羨ましかったんだよ」


言葉の裏にあったのは、陽キャという仮面に隠した孤独だった。


「だって、あの頃のことねは…しゃべらなくても、ちゃんと“伝わってた”もん」


**


中学時代。

廊下の端にしゃがみ込んで、ひとり教室へ入れなかった彩葉。

明るくて、友達がいっぱいいる“結城いろは”のイメージは、彼女が必死に築いた虚像だった。


クラスの輪の中心にいながら、どこにも居場所がなかった。


そんなとき、無言で隣に座ってくれたのが、ことねだった。

何も言わず、ただ、イヤホンの片方を差し出してきた。


流れていたのは、SOUL’d OUTの「ALIVE」だった。

裏拍のグルーヴに乗せた、感情の叫び。


その日から、彩葉の中にラップが根を下ろした。


**


「私ね、ことねに“救われた”なんて、簡単には言いたくなかった。でも……あのときのことねがいたから、私、明るい自分を演じてでも、ここにいられたんだよ」


ことねは、何も言わずに聞いていた。


芽依は静かにPCを開き、トラックを流し始める。

低音から始まり、浮遊感を持ったシンセが舞い上がる――Silent Riotの新たな“舞台”だった。


彩葉が一歩前に出る。


リリックを口にするその瞬間、彼女は“いろは”ではなく、

感情を撃ち抜く“結城彩葉”だった。


🎤彩葉リリック(Verse Sample)

キラキラ笑ってりゃ 誰も傷に気づかない

ホントの「陽」ってやつは いつも影と二人三脚

放課後の教室 一人だけのカーテンコール

君がくれた声で 私はようやく叫べたの

ことねと芽依は、目を合わせる。


「……これで、やっと3人揃ったな」

「Silent Riotの“本当の音”、ここからだね」


誰もが自分の痛みを抱え、それでも繋がった3つの声。

次なる舞台──町田ラップ大会へ、物語は加速していく。

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