第39章「リリックは自分の中に」


夜。

ことねは一人、紙とペンを前に座っていた。


何度も握り直したペン。

破り捨てた草稿。

リズムが、ことばが、自分の奥底からまだ“出てこない”。


だけど芽依のビート、彩葉の笑顔、過去の自分の震え――

すべてが、ことねの“中”でひとつの旋律になっていた。


その瞬間、ペンが走った。


🎤《はじまりのリリック》(作詞:姫咲ことね)


教室の隅で息を殺した

声はあったけど出せなかった

黒板の文字より重かったのは

自分自身の存在証明(エビデンス)


光が怖くて目を伏せた

でもいつか誰かの音に震えた

それが何かもわからないまま

「私も何かを叫びたい」って思った


ノートの端に書いた言葉

誰にも見せないままのコトバ

でも今はマイクがある、仲間がいる

この声が“武器”になるなら──


……私は歌う

「ここにいるよ」って

自分を肯定するためのリリック

最初の1歩、それがこのVerse

始まりのビート、Break the curse!


ことねが歌い終わると、静寂が訪れた。


芽依は無言でビートを止め、

彩葉はゆっくりと拍手をした。


「……やば……泣いた」


芽依も珍しく頷いた。


「リリック、できたね」


「うん……やっと、書けた」


ことねは少し震えながら笑う。

それは、自分で自分を抱きしめるような、やさしい笑顔だった。



「うおおおぉぉ……ことねぇぇぇ!!!(涙)」


北山望は、駐輪場で一人スマホに向かって泣いていた。


再生されたSilent Riotの自主投稿動画には、

マイクの前でラップすることねの姿。


「俺、信じてた……やっぱあの子はやると思ってたんだよ……推しが世界で一番尊い……」


そこへ偶然通りかかった郷原ゆい。


「え、なにこのキモ……あ、あんた……ことね推し?」


「はい、彼女がぼくの光です(即答)」


「……ま、あたしも一応ファンだけどさ……あんたの愛が重いっての」



詩織と響もその動画を見ていた。


「この子……ちゃんと、“届いた”ね」


響が小さく呟いた。


「うん。言葉に、震感が乗ってる。あたしらと似てる、けど……違うやり方で、戦ってる」

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